そもそもウィスキーとは何か?(後編)

ウィスキーとは何か、というのを、ウィスキーの魅力の面から語ろうというのがこの記事の趣旨だ。「そもそもウィスキーとは何か?(前編)」では、ウィスキーの香り特異性である「凝縮」、すなわち、
たった1滴の中から宇宙が見えるような、香りの爆発
の背景には、ワインやビールにはない「蒸留」という工程があることを明かした。
後編ではすでに予告していた通り、ウィスキーのロマンティックな面、すなわち、「熟成」に焦点を当ててみたいと思う。


ウィスキーは時が育てる

ウィスキーをひと口含む。あなたはその瞬間に、そのウィスキーが生まれてからの数年から数十年を味わう。その時間を経たウィスキーがあなたの嗅覚と味覚を満足させてくれる。ところで、この酒の評価は、生まれたときにはまったく定まらない。どう育つかで評価が決まるのが、面白いところだ。だから、生まれた年の「当たり年」や「はずれ年」もない。生まれた瞬間に評価がある程度決まってしまうより、その後の時によってなにかが作られていくほうが、ずっとロマンがある。
では、ウィスキーはどのように育つのだろうか?

樽の中で眠っているウィスキーに何が起きているのか?

木の樽の中でウィスキーは、時間をかけてゆっくりと変化する。何千という自然の香味成分が、樽の中で徐々に調和していく。隣り合う同じような樽のはずなのに、中身は毎年違うものになっていく。樽の中では、無数の科学的な反応が絶えず起こっていると予想されている。
つまり、毎日、何かが足されて、何かが失われていく。それは神秘的なプロセスで、その熟成の秘密は、科学的にも解明できていない。

だから、どんな風に育つかは、まったく予想ができない。若いときに「ぜんぜんダメだ」と思われた樽も、しばらく寝かせて、年月を経たとき、素晴らしい樽になっていることもある。樽の材質なのか、気候なのか、どういう条件が揃えば「よいウィスキー」ができるか、よく分からないのだ。そのウィスキー自身にも未来とは暗闇のなかで必死に模索するもので、自らの可能性を信じながらも、不確実性の毛布に包まれて育つ。

ウィスキーは、たくさんの偶然と、毎日変化する無数の環境要因によってつくられている。

つまり、時間に揉まれ磨かれることが宿命の酒だ。
その液体を口に含むとき、あなたはその宿命を感じながら、そのウィスキーが辿ってきた時を飲む。厳しい冬や、穏やかな春。爽やかな夏や、切ない冷え込みの秋を、いくつもくぐって。もし、このことを少しでも感じながらウィスキーを飲んだなら、あなたはもう、ウィスキーの虜で「なぜウィスキーを飲むのか」の答えを、たしかに実感しているだろう。

ウィスキーをつくる「熟成」とは、なんと人間らしいプロセスで、なんとロマンティックなのだろう。
今宵も、素敵なウィスキーライフを。



2 件のコメント:

  1. はじめまして。
    単純にオフィシャル12年とかスタンダードでありますが12年という歳月を思いだすと、人それぞれの人生があったと思います。
    超熟でなくても12年前や10年前を思いだしながらウイスキーを飲むと考え深いですね。
    12年後に今の自分が 生きてるのかと、考えながら

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    1. はじめまして。確かに、12年ものを飲むとき、自らの12年前や、この12年間を思い浮かべながら飲むと、不思議な感覚に包まれます。

      さらに、20年物を飲むときには、ふと「今年仕込まれたウィスキーが20年ものになるためには、あと20年はかかるんだよなぁ」と途方もない時間のように感じて、そのウィスキーを無意識にスゴイ!と思います。
      また、やはり私も、果たしてこれからの20年、自分は、世の中はどのようになるのか、(生きているのかどうかも含め)本当に不確実性の中で生きてることを実感し、時間の有難さを思います。

      一杯のウィスキーがそこまで考えを深めてくれるというのは本当にすごいことですね。

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