レビュー:タムデュー アートに昇華された木のえぐみ

TAMDHU(タムデュー)を飲んだ。86点。
ブレンデッド・ウィスキーのフェイマスグラウスに使用されているキーモルトのひとつでもある。
蒸留所が閉鎖していたが経営が変わって、今年2013年5月に再開予定だそうだ。ウィスキーの蒸留所は経営が安定しないところが多い。酒を造ることと売ること、両方うまくいくのは幸運なケースなのだろう。


【評価】
グラスをまっすぐ持ち上げ、首を折って鼻を近づければ、草を燻した香り。ハーブの複合。正露丸だが、針葉樹の木の香り。初夏の小川の岩。
首を持ち上げ、グラスを傾け液体を口に流し込むと、なめらかさ、意図的に消された鋭さが、このウィスキーの個性を際立たせる。なめらかな海藻のような舌触りが基調となり、高音部分に木の香りが激しく主張する。木のえぐみがアートに昇華されている。
安い酒だと思って気軽にウッカリ飲むと、その良さに驚かされるウィスキー。

【Kawasaki Point】
86point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:TAMDHU(タムデュー)
地域:Highland, ハイランド
樽:Oak, オーク
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル


蒸留所は今年5月に再開予定のタムデュー
歴史は古く1897年からやってます。
ボトルの裏
なめらかな海藻のような舌触りが基調となり、
高音部分に木の香り
気軽にウッカリ飲むと、その良さに驚かされるウィスキー

TAMDHUの意味は、ゲール語で「薄暗い小さな丘」という意味だそうだ。
イギリスはハイランドにあるタムデュー蒸留所の位置を地図で確かめてみて。

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レビュー:ブラントン その馬のボトルキャップの愉しみ

Blanton's(ブラントン)を飲んだ。75点。
ブラントンはアメリカン・ウィスキーで、通称“バーボン”と呼ばれるケンタッキー州の酒だ。ケンタッキーダービーのサラブレッドがボトルキャップに使われていて、かなりインパクトが強い。
このバーボンが特徴的なのは、シングル・バレルということだ。(通常、さまざまな個性の樽の原酒を混ぜてボトリングするが、このブラントンは樽から出したまんまだ。だからボトルで個体差があるはず)


【評価】
グラスから上がる香りには、ねっとりした甘みの奥に竹と炭を感じる。バラの茎。ドライの木苺。
グラスを傾ければ、そのままの香りが口中に拡がる。焦がしと熱、そして甘みをじりじりと残しながら、ゆっくりと消えていく。
バランスは取れているが、味わいの幅は限定的なウィスキー。

【Kawasaki Point】
75point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:Blanton's(ブラントン)
地域:アメリカ
樽:Oak, オーク
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル

ねっとりした甘みの奥に竹と炭

バラの茎。ドライの木苺。

ボトルキャップは全部で8種類

B, L, A, N, T, O, N, S の8種類の馬の姿

ゴール!!


8種類のボトルキャップを集める愉しみもあるようで・・

甘みをじりじりと残しながら、ゆっくりと消えていく


ブラントンを瓶詰めする様子。作業している人、ぜったい酔っ払うよなぁ・・・。



バッファロートレース蒸留所は、ケンタッキー州にあり、ブラントンを作っている。

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レビュー:山崎ミズナラ 2012 爽やかなのに重みもある

山崎ミズナラ 2012(YAMAZAKI MIZUNARA 2012) を飲んだ。88点。
このボトルは限定1,000本で、人気の割りに希少だ。
ミズナラは木材のこと。普通ウィスキーの樽には、アメリカンオークやヨーロピアンオークを用いるが、ミズナラはジャパニーズオーク。このミズナラ、樽につかう木材としては、最悪だ。水が漏れやすいという欠点がある。戦後、ウィスキーに適したオークが手に入らなかったので、“仕方なく”欠点のあるミズナラを使ってみた。案の定、美味くなかった。ただ、しばらく放っておいたり、何度か使ってみたりするうちに「あれ、美味くなっているじゃないか!しかも独特のうまみだ!」という発見があった。誰も期待しなかったミズナラは、ジャパニーズ・ウィスキーのオリジナリティとなった。
山崎12年など、“山崎シリーズ”に使われている樽のひとつ(山崎として売り出しているシングル・モルトは、他にもシェリー樽やバーボン樽などのさまざまな原酒を合わせている)。
今回のボトルはミズナラ樽のみを使用している。


【評価】
グラスから立ち上る香りは爽やか、若さが瑞々しい。ほんのり焦がした香り。柔らかで芳ばしい樽香がうまみを伝える。新築の木の家。
グラスを傾け、口に流し込めば、爽やかで柔らかな口当たり。苦味がほんのりとうまみを引き立てる程度に抑えられている。そして通常は口全体で感じるモルトの重みがなく、なぜか舌の上だけに重みを残す。普通の樽ではありえない感覚。
爽やかなのに重みもある独特なウィスキー。

【Kawasaki Point】
88point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:山崎ミズナラ 2012(YAMAZAKI MIZUNARA 2012)
地域:山崎、大阪 YAMAZAKI, OSAKA
樽:MIZUNARA, ミズナラ
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル


ミズナラは、ジャパニーズ・ウィスキーのオリジナリティ

若さが瑞々しい。ほんのり焦がした香り。

柔らかで芳ばしい樽香

爽やかなのに重みもある独特なウィスキー。

日本は大阪の山崎蒸留所の場所を地図で確かめてみて。
大事な勝負、という意味で使う「~~の天王山」という表現はこの地が由来。
昔、秀吉が光秀と戦った地であり、千利休が秀吉のために茶室をひらいた地でもあるのが山崎なのだ。

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新・バーの十戒

「バーの十戒」と言えば、かの有名なマンガ「Bartender」の作者の城アラキさんが示したものだ。
例えば「カウンターで寝てはいけない」などマナーについて書かれている。
この「バーの十戒」に敬意を示しつつ、「新・バーの十戒」を発表する。「新・バーの十戒」は、より初心者にも分かりやすく、慣れた人なら「なるほど」と言える内容にした。


新・バーの十戒

  1. バーテンダーのことをバーテンと呼んではならない
  2. 酒の香りを匂いと言ってはならない
  3. バーテンダーを急かしてはならない
  4. 大声でしゃべってはならない
  5. 出された酒が好みではなかった時、嘘をついてはならない
  6. 乱れてはならない
  7. 酒の愉しみ方にルールがあると思ってはならない
  8. それが誰であれ説教をしてはならない
  9. 過去に安くしてもらったとしても言及してはならない
  10. 気に入らないバーには二度と足を踏み入れてはならない

新・バーの十戒:解説編

  1. バーテンという呼び方は、蔑視のニュアンスが含まれますのでご注意を。(バーテンダー+フーテン=バーテン、という説も)
  2. 「におい」には異臭というニュアンスがあるので、ぜひ「香り」と表現しましょう。
  3. 急かしたところでそのバーテンダーさんの能力以上には速くなりません。心に余裕を持ちましょう。
  4. だだっ広い空間ではないので、そのバーの雰囲気にあわせた声のボリュームを。
  5. 好みでない酒はそう伝えましょう。バーテンダーさんのメモリーに記録され、次回に役立ちます。
  6. 酒は「決して乱れず」が美しいです。飲みすぎず、姿勢も言動もシャンとしていましょう。
  7. 酒の飲み方はそれぞれお好きなように。ほかの人の注文にも正解・不正解はないのです。
  8. 最悪なのはマスターへの説教です。バーは良くも悪くもマスターの空間ですから、説教するぐらいなら行かなきゃいいんです。
  9. 何らかのタイミングで安くしてくれた情報を特に他のお客さんにバラしてはいけません。せっかくの厚意をアダで返さないように。そのとき一回きりのありがたいものとして心にしまっておきましょう。「あの時は安くしてくれた・・」などとチマチマしたことは言わないように。
  10. よいバーが栄え、よくないバーが廃れるように、よいバーには足を運び、よくないバーには二度と行かない、という直接行動でバーを評価しましょう。あなたの感覚で評価してください。

補足

尚、城アラキさんのバーの十戒の中に「5千円以下ではカードで支払わない」という項目がありますが、これは完全に間違っています。カード払いができる店では、いくらであってもカードで支払ってよいのです。手数料がかかる云々の解説もありますが、金額に関わらず手数料は同じパーセンテージで掛かるので、金額によってカード支払いをする・しないを分ける意味がありません。また、店側のキャッシュフローを考えるなら、むしろ大きな金額では現金払いのほうが良いということになります。ただ、いずれにせよ、カード払いができる店では、いくらであってもカードで支払ってよいのです。それが不都合な店は、カード支払いを導入しなければ良いだけなのです。これは、そのお店の経営判断であって、お客さんが配慮することではありません。このカード支払いに関する十戒は、経営オンチな店を育ててしまう危険性があるので、特に言及しておきました。ちゃんと経営ができる、というのは良いバーの条件ですから。


酒の基本は決して乱れず。それさえできれば後は・・


以上、心の片隅に留めながら、今日もよいウィスキー・ライフを。



レビュー:余市1987 22年 シングル・カスク あたたかさと安らぎ

余市1987 22年 シングル・カスク(Yoichi 1987 22yo Single Cask)を飲んだ。87点。
「1987」といえば、ウィスキーのワールドカップと言えるWWA(ワールド・ウィスキー・アワード)で2008年に世界No.1を獲得したウィスキーが余市「1987」だった。世界に「ジャパニーズ・ウィスキーここにあり」と初めて存在感を示した伝説的なウィスキーだ。日本に本格的なウィスキーをもたらした竹鶴政孝が生きていたなら、どんな想いであっただろうか。彼はサントリー(当時:寿屋)で山崎蒸留所を立ち上げた後、どうしても北の大地に蒸留所を作り上げる理想を捨てられず、自分で会社を興し、余市蒸留所を立ち上げたのだ。
今回の余市は、WWAでNo.1を獲ったものと全く同じではないが、同じ仕込み年(1987)だったので、グラスを傾けながら上記のように思いを馳せてみた。先人達に感謝をしながら・・。


【評価】
華奢なグラスが鼻の奥まで、甘くメロウな香りを届ける。優しくそよ風が囁く。真綿で包まれた木。ドライフルーツ。静かに波音が聴こえ、樹液が染み出す。
目を閉じて琥珀色の液体を少量、口に流し込み舌全体で味わうと、清涼感のある甘みを感じる。味が広がり、暖炉にくべた木、白檀の高貴さを感じ、同時に丸太の無骨さのような主張を受け取る。飲み込めば、アルコールが身体を温める。
寒い冬の日にどうか一杯、あたたかさと安らぎを与えるためにください、と頼みたくなるウィスキー。

【Kawasaki Point】
87point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:余市1987 22年 シングル・カスク
地域:余市、北海道、Yoichi, Hokkaido
樽:Oak, Sherry, オーク、シェリー
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル


熟成の歴史を感じる琥珀色

丸太の無骨さのような主張を受け取る

WWAで世界最高峰を達成した翌年にボトリングされている

札幌から北西へ約40km。厳しい寒さの余市蒸留所の場所をマップで確かめてほしい。

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レビュー:VAT69(特級) 意外な主張

VAT69(特級表示)を飲んだ。83点。
特級表示のあるウィスキーは1962~1989年に発売されたウィスキーだ。なにが特級かって、税率が特級だった。今は2,000円のスコッチ・ウィスキーが10,000円以上した時代だ。
ちなみにウィスキーの原料や製法は、微妙にではあるけど日々変わっているので、同じVATというウィスキーでも、昔のものと今のものとでは味わいが違う。


【評価】
グラスを鼻に近づけると、甘くゆるい香り。白いユリの香り。木目の間の樹液。主張しすぎない腐葉土。
口に含めば、拡がる薄いヨード香。あっさりと薄く味わう。煙の音が聞こえる。鉄の煙突。
安価なブレンデッドウィスキーだと思い、何気なく飲むと意外な主張に驚き、すごくうまいウィスキー。

【Kawasaki Point】
83point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:VAT69(特級表示)
地域:Highland, ハイランド
樽:Oak, オーク
ボトル:Blended, ブレンデッド

甘くゆるい香り。白いユリの香り。

何気なく飲むと意外な主張に驚く

昔は素晴らしいものにはなんでも
「デラックス」と付いていたらしい

1882年、ウィリアム・サンダーソンさんが
100のVAT(調合具合を変えたバッチ)をつくり、
皆で飲んだところ69番目のVATが一番うまかったそうな。
それがVAT69の由来。
時代を偲ぶ特級表示

VAT69はイギリスはハイランド、ロイヤル・ロッホナガー蒸留所にて生産されている。

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