レビュー:マッカラン18年 暗闇の中の黒ヒョウ

The MACALLAN 18yo(マッカラン 18年熟成) を飲んだ。88点。

The MACALLAN 18 years old

【評価】
グラスから立ち上るのは、澄んだシェリーの香り。いくつかのスパイス。前に出過ぎない木のえぐみ。レモン、マンゴー、とろんとした蜂蜜。深夜の高速道路で、長いトンネルに入りしばらく走っている。静かな気持ちになる。覚醒するような、眠るような、くすぐるような、落ち着かせるような、相反する要素を持った香り。
口に含めば、深く入ってくるのに、沈み込まない。黒ヒョウが暗闇の中で頭をもたげて、その黄金色の眼はこちらを向いている――そのような静けさと、確かな存在感。この苦味を調和するのは、ミントのような清涼感。香りは広がるが、広がりすぎず、ノドが熱いが温かい気持ちにさせる。
まぎれもなく、飲むものを内側に向かせる銘ウィスキー。

【Kawasaki Point】
88point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:MACALLAN 18yo (マッカラン18年熟成)
地域:Highland (ハイランド)
樽: Sherry, Oak  シェリー、オーク
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル


マッカランの年数表示は三角形のラベル

澄んだシェリーの香り。いくつかのスパイス。

ハイランド シングル・モルト スコッチ ウィスキー

静けさと、確かな存在感。

飲むものを内側に向かせる銘ウィスキー

世界でも最も美しい部類のウィスキーをつくるマッカラン蒸留所の位置を地図で確かめてほしい。

大きな地図で見る


レビュー:ブルイックラディ 20年 モリソン&マッカイ 奇跡的なバランス

Bruichladdich 1992 20yo MORRISON & MACKAY Seriese:WORLD WONDERS(モリソン&マッカイのワールド・ワンダーズ  ブルイックラディ 20年熟成)を飲んだ。88点。

ちなみにこのボトルのラベルに描かれたWorld Wonders(世界の七建造物)は、「マウソロス霊廟」で、ペルシャの方で紀元前3百年ごろの建物(古代ローマ時代)。大理石に、豪華な彫刻、美しい建物であった・・という伝説で、今はもう遺跡でその姿を想像するほかない。
いずれにせよ、このウィスキーと、ボトルの画との関連性は・・・・よくわからないが、雰囲気がいいから良しとしよう。

ワールド・ワンダーズ ブルイックラディ20年熟成

【評価】
グラスに鼻を近づければ、甘く香るのに、なんと端正な!麦、ハチミツ、睡蓮の雫、森の中に泉があって、空が開いている。薄い水色の空に夏雲が浮かぶ。小鳥がさえずる。森の香り。森の中で出会うピート。
口に含めば、口の中を程よくけむらせながら、倒木に腰掛け、昔話を聞かせるようにゆったりと、香りが広がる。レモン、赤い木の実、ローストされたハチミツ。
奇跡的なバランスのブルイックラディ。しかし儚い夢のようでもある。

【Kawasaki Point】
88point

【基本データ】
銘柄: Bruichladdich 1992 20yo(ブルイックラディ 1992 20年熟成)
地域:Islay (アイラ)
樽: Bourbon, Oak  バーボン、オーク
ボトル:MORRISON & MACKAY, モリソン&マッカイ

1992年5月20日に仕込んで、2013年3月13に取り出した。

マウソロス霊廟の描かれた神秘的なボトル

倒木に腰掛け、
昔話を聞かせるようにゆったりと、
香りが広がる。

赤い木の実、ローストされたハチミツ

奇跡的なバランスのブルイックラディ。
しかし儚い夢のようでもある




レビュー:グレンゴイン スコティッシュオーク 灰色の羽帽子の・・・

GLENGOYNE 16yo Scotitish Oak Wood Finish(グレンゴイン 16年熟成 スコティッシュ・オーク仕上げ)を飲んだ。85点。
原酒はシェリー樽と、新樽のそれぞれで15年熟成したものを使い、最後の1年ぐらいをスコティッシュ・オークで熟成させた(いわゆるダブルマリッジな・・・)そんな一本。
さてはて、その香味はいかに。

グレンゴイン スコティッシュ・オーク・フィニッシュ
 【評価】
グラスに鼻を近づければ、爽やかなオークの香り、杉に近い、濃さを予感させるのにくどくない。実直でふくよか。かすかにスパイスと花が香る。
口に含めば、バランスの取れたシェリーの香り、瑞々しい。シェリーの華やかさと、スッキリと新樽の爽やかさの後に、スパイスが下支えする。
エドゥアール・マネの『灰色の羽根帽子の婦人』みたいに、しっとりとした気品と爽やかさの同居したウィスキー。

【Kawasaki Point】
85point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:GLENGOYNE 16yo Scotitish Oak Wood Finish(グレンゴイン 16年熟成 スコティッシュ・オーク仕上げ)
地域:Highland, ハイランド
樽:Oak, Plane, Sherry オーク、プレーン、シェリー
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル

グレンゴイン蒸留所は1833年創業


このボトルは9190番
このシリーズは限定品なのでナンバリングされている


バランスの取れたシェリーの香り、瑞々しい

しっとりとした気品と爽やかさの同居したウィスキー

以前も紹介したが、グレンゴイン蒸留所のムービー。とても美しい。




レビュー:ボウモア 10年 テンペスト バッチNo.3 強烈な潮と焦げ

BOWMORE 10yo TEMPEST Small Batch Release No.3(ボウモア 10年熟成 テンペスト スモール・バッチ・リリース No.3)を飲んだ。83点。
Tempest(テンペスト)の意味は、暴風雨だ。荒れ狂う鉛色の空と海、吹き荒れる風、、といったイメージだろうか。ただでさえボウモアはピート香がガッツリ効いているが、果たして、このウィスキーはいかほどか。

ボウモア テンペスト バッチ3

【評価】
グラスに鼻を近づければ、夏の夕立のあとの土の香り、爽やかな水しぶきと岩。鮮やか。煙がゆるやかにではあるが、薫っている。
液体を口に含めば、焚き木を口の中にいれたような、煙と焦げ。しかし甘さもあり、青い夏の空の下の海、という光景が浮かぶ。
強烈な潮と焦げが、大きな岩のゴツゴツした輪郭を浮かび上がらせるような印象を与えるウィスキー。

※強烈ではあるが、暴風雨というだけでない、バランスも整ったウィスキー

【Kawasaki Point】
83point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:BOWMORE 10yo TEMPEST Small Batch Release No.3(ボウモア 10年熟成 テンペスト スモール・バッチ・リリース No.3)
地域:Islay, アイラ
樽:Oak, Bourbon, 1st Fill オーク、バーボン樽のファーストフィル
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル


アイラ島の形がエンボスされたボトルキャップ

Small Batch Release、少量のリリースだ

大きな岩のゴツゴツした輪郭を浮かび上がらせるような印象を与える

夏の夕立のあとの土の香り、爽やかな水しぶきと岩


焚き木を口の中にいれたような、煙と焦げ。強烈。

イギリスの小さな島、アイラ島に位置するボウモア蒸留所を、グーグルマップで確かめてみて。

大きな地図で見る



そもそもウィスキーとは何か?(後編)

ウィスキーとは何か、というのを、ウィスキーの魅力の面から語ろうというのがこの記事の趣旨だ。「そもそもウィスキーとは何か?(前編)」では、ウィスキーの香り特異性である「凝縮」、すなわち、
たった1滴の中から宇宙が見えるような、香りの爆発
の背景には、ワインやビールにはない「蒸留」という工程があることを明かした。
後編ではすでに予告していた通り、ウィスキーのロマンティックな面、すなわち、「熟成」に焦点を当ててみたいと思う。


ウィスキーは時が育てる

ウィスキーをひと口含む。あなたはその瞬間に、そのウィスキーが生まれてからの数年から数十年を味わう。その時間を経たウィスキーがあなたの嗅覚と味覚を満足させてくれる。ところで、この酒の評価は、生まれたときにはまったく定まらない。どう育つかで評価が決まるのが、面白いところだ。だから、生まれた年の「当たり年」や「はずれ年」もない。生まれた瞬間に評価がある程度決まってしまうより、その後の時によってなにかが作られていくほうが、ずっとロマンがある。
では、ウィスキーはどのように育つのだろうか?

樽の中で眠っているウィスキーに何が起きているのか?

木の樽の中でウィスキーは、時間をかけてゆっくりと変化する。何千という自然の香味成分が、樽の中で徐々に調和していく。隣り合う同じような樽のはずなのに、中身は毎年違うものになっていく。樽の中では、無数の科学的な反応が絶えず起こっていると予想されている。
つまり、毎日、何かが足されて、何かが失われていく。それは神秘的なプロセスで、その熟成の秘密は、科学的にも解明できていない。

だから、どんな風に育つかは、まったく予想ができない。若いときに「ぜんぜんダメだ」と思われた樽も、しばらく寝かせて、年月を経たとき、素晴らしい樽になっていることもある。樽の材質なのか、気候なのか、どういう条件が揃えば「よいウィスキー」ができるか、よく分からないのだ。そのウィスキー自身にも未来とは暗闇のなかで必死に模索するもので、自らの可能性を信じながらも、不確実性の毛布に包まれて育つ。

ウィスキーは、たくさんの偶然と、毎日変化する無数の環境要因によってつくられている。

つまり、時間に揉まれ磨かれることが宿命の酒だ。
その液体を口に含むとき、あなたはその宿命を感じながら、そのウィスキーが辿ってきた時を飲む。厳しい冬や、穏やかな春。爽やかな夏や、切ない冷え込みの秋を、いくつもくぐって。もし、このことを少しでも感じながらウィスキーを飲んだなら、あなたはもう、ウィスキーの虜で「なぜウィスキーを飲むのか」の答えを、たしかに実感しているだろう。

ウィスキーをつくる「熟成」とは、なんと人間らしいプロセスで、なんとロマンティックなのだろう。
今宵も、素敵なウィスキーライフを。



そもそもウィスキーとは何か?(前編)

ついうっかりしていて、「ウィスキーってなんだっけ?」という疑問に答えていなかった。
ウィスキーブログとして迂闊だった。
Wikipediaに載っている歴史とか科学とかはさて置き、ここでは飲み手としてのウィスキーを語ろう。

  • ウィスキーってどんな美味しさなの?
  • なんで人は他の酒がある中でもウィスキーを飲むの?

といった観点から、ウィスキーとは何かを紹介しよう。



ウィスキーの美味さは、その香りにあり

なぜ人がウィスキーの虜になるのか、その秘密は香りにある。ウィスキーの香りは、ほぼ香水なのだ。なんでも一杯のウィスキーには、数千の香りが含まれているとか。代表的な香りは、、

  • 木の香り
  • バニラの香り
  • チョコレートの香り
  • 花の香り
  • レモンの香り
  • リンゴの香り
  • 煙の香り
  • 皮の香り

などがある。(詳しくはこのブログのさまざまなテイスティングコメントを参考にしてほしい)
なぜ多様な香りを凝縮できるのか?それは香水と同じで、「蒸留」という神秘的なテクニックを使うからだ。


蒸留して、樽で寝かせるから神秘的に香る


香りだけなら、ワインもビールも豊富ではないか、と思うかもしれない。
確かに香りの「豊富さ」ではワインもビールも素晴らしいのだが、ウィスキーの香りは「豊富」であると同時に、「凝縮」しているのだ。たった1滴の中から宇宙が見えるような、香りの爆発。それがウィスキー特有の「香り体験」をつくりだす。

なぜウィスキーの香りは、香水のような、エッセンシャルな香りの「凝縮感」があるのか。
それはワインにもビールにもない「蒸留」という工程が2つの効果を生み出すからだ。

ひとつ目の効果は、蒸留することで香り成分を取捨選択できること。これは蒸留器の「形状」によってコントロールできる。香りの科学だ。

ふたつ目の効果は、アルコール度数を高めることで木の樽の香りを最大限に得られること。
ワインもビールも(ついでに日本酒も)、蒸留していない醸造酒で、アルコール度数は高くても20度程度だ。ウィスキーは、醸造酒をぐつぐつ煮て「蒸留」してつくるから、蒸留したてのウィスキーの原液は60度以上ある。ここがポイントで、木の樽はアルコール度数が60度程度のとき、たくさんの香り成分が溶け出すという。
だから、人類が「蒸留」という技術を手に入れないと出会えなかった自然の香りが、ウィスキーには含まれているのだ。

ウィスキーのできるプロセスはざっくり4つ。香りに注目してみよう。

  1. 自然の原料を採取、加工
  2. 微生物の力で醸造(香り成分とアルコールが生まれる)
  3. 蒸留器で蒸留(好ましい香り成分だけ抽出し、アルコールを凝縮させる)
  4. 木の樽で熟成させる(木の香り成分と、その土地の風の香りもついていく)

大まかに言えばワインやビールは「2」番どまり。3番以降は、人類が「蒸留」という技術を手に入れるまでは出来なかったのだ。(当時はあまりに神秘的すぎて魔術の一種と思われていたようだ)

ここまででも、ウィスキーのユニークさ(独自性)が分かってもらえたと思う。数千の香りが凝縮したウィスキーを口に含んだ際の、その香りの爆発はウィスキー特有のものだ。
「なぜ人がウィスキーを飲むのか」の秘密に少し迫れたと思うが、もうちょっとロマンティックな話もしておかなければならない。でもそれはまた、後半に引き継ごう。


後編はこちら
そもそもウィスキーとは何か?(後編)