いくつになってもウィスキーを愉しむために知っておきたい7つのこと

「より長くウィスキーを愉しみたい」と考える人にとっての最大のリスクは、ドクターストップで「もう飲めなくなる」という状態になることだろう。

誰もが避けたいこのシナリオは、単に適正な知識がないことによって、いとも簡単に陥ってしまう場合がある。

この記事では、飲酒に関する7つの基礎的な知識を紹介しよう。もちろん、ここに書かれているのはあなたへの医療的なアドバイスではないし、強制でもない。「へぇ」というトリビアとして受け止めてもらっても構わないし、酒のネタにしてもらってもいいし、もちろんスルーしてもよい。

7つの知識の内、そのひとつが役立つかもしれないし、全部かもしれない。あるいは全部知っていることで単に確認ができるだけかもしれない。

実は、ウィスキーを推奨する立場にあるウィスキーブログとしては、ウィスキー熱に水を差したくないという思いもあるためこの話題について表現の難しさも感じている。しかし、健康とウィスキーの愉しみの両立を考えたとき、この話題は多くのウィスキー好きに役立つとも感じ、公表するにいたった。

おいしいウィスキーを長く愉しみたい

さて、ひとつずつみていこう。

ポイント1. 飲める人、飲めない人、少し飲める人のタイプを知りたい

“酒の強さ”には3タイプあるのをご存知だろうか?
これは遺伝によって決まっている。アルコールを分解すると有害な【アセトアルデヒド】(頭痛や吐き気の原因)が生まれるが、身体はこれを無害な物質に分解しようとする。この分解酵素がどれぐらい働くか?が遺伝で決まっている。

  • まったく飲めないタイプ(6%)
    • 【説明】 ひとくち(~1杯)で顔がすぐ赤くなったり動悸・頭痛がする。アセトアルデヒドを分解する酵素がまったく働かない。
    • 【リスク】 自分から飲まないので、アルコールによる危険がほとんどない。ただし、無理に飲むとガンのリスクがとても高まる。
    • 【注意】 このタイプの人に飲酒を進めることは暴力的な行為となる
  • 弱いけど少し飲めるタイプ(38%)
    • 【説明】 全く飲めないわけでないが赤くなる、動悸・頭痛がある。「昔は弱かったけど慣れた」などの発言。すこしだけ酵素がはたらく。
    • 【リスク】 習慣的に大量飲酒すると耐性がついて頭も痛くならず吐き気もしなくなるので、「飲めるようになった」と感じやすくなる。(アセトアルデヒド専門の酵素とは別の酵素群が代替的にはたらくようになるから)
    • 【注意】 このタイプが「酒に慣れ」て「たくさん飲む」と、ガンや肝機能障害につながるリスクが高いと言われている。つまり、根本的に強くなったわけではない。
  • 飲めるタイプ(56%)
    • 【説明】 割とスイスイ飲める。アセトアルデヒドを分解する酵素がはたらく。
    • 【リスク】 「自分は飲めるタイプだ」という認識のもと、さしあたって不都合な症状も起こりづらいため、酒量が多くなりがちの傾向があると言われる。
    • 【注意】 酒量が多くなりがち。アルコール依存症人の8割強がこのタイプなので気をつけたい。

(ちなみに上記のタイプ分けはモンゴロイドだけ。白人や黒人はほぼ全員が「飲めるタイプ」)


あなたはどのタイプ?

気になる自らのタイプだが、だいたい飲酒経験から9割程度ただしく自己判別できるといわれている。ただもしあなたが20歳になりたててで、とても気になれば、下記のような検査をやってもいいかもしれない。


アルコール体質試験パッチ 3枚

ちなみにバンソウコウでも同じことができる。アルコールパッチテストの手順は以下のとおり。

  • バンソウコウに消毒用アルコールを2~3滴染みこませる
  • 上腕の内側に貼る(ひじの内側よりやや肩寄りの位置)
  • 7分経ったらはがす
    • 貼っていた箇所が赤くなっていたら【飲めないタイプ】
  • はがした後10分後にもう一度見る
    • 貼っていた箇所が赤くなっていたら【弱いけど少し飲めるタイプ】
    • なんの変化もなければ【飲めるタイプ】
(参考:アルコール代謝の体質が簡単にわかるパッチテスト サントリー


GENOTYPIST アルコール感受性遺伝子分析キット(口腔粘膜用) では、遺伝子から調べることもできる。これはよっぽど確かめたい場合でよいだろう。



ポイント1の結論 : お酒の強さは先天的に決まっている。無理をしない&させないが重要




ポイント2. 1日あたりの適量を知りたい


1日のアルコール適量はどれぐらいだろうか?
(※ここから下は上記の【飲めるタイプ】を基準に書いていく。【弱いけど少し飲めるタイプ】の人は下記基準より少ないと考えて欲しい)
個人差や性差が大きいが、ピュアアルコールで20gまでが「適正飲酒」の範囲とされている。ピュアアルコール(純アルコール)とは、お酒の種類が何であろうと、そのお酒に含まれる「アルコールそのものの量」のことを指している。ウィスキーでいうと約「シングル2杯分」と覚えるとよいだろう。これぐらいの飲酒量は病気の種類によってはむしろリスクが減ると考えられている。

式: シングル1杯30ml ✕ 2杯 ✕ アルコール度数40% ✕ 比重0.8 = 19.6gのピュアアルコール
(ちなみに、ビールだと500mlのロング缶1本程度が適量)

※女性の場合上記の1/2~2/3が目安量

ポイント2の結論 : 1日あたり、シングル2杯で愉しみましょう





ポイント3. 高リスクな酒量を知りたい

適量はピュアアルコールで20g程度とされているが、許容範囲は40gまでとされていてる。
40g以上は健康に対して高リスク、60g以上になると多量飲酒でかなり危険と位置づけられる。
※女性の場合1/2~2/3が目安量

それぞれの純アルコール量目安
適量  :20g程度 ・・・ シングル2杯
許容  :40g未満 ・・・ シングル3杯
高リスク:40g以上 ・・・ シングル4杯以上
多量  :60g以上 ・・・ シングル5杯以上

ポイント3の結論 : 多い日も、シングル3杯までにしたいですね





ポイント4. 「危険飲酒」を知りたい ~チェック付き~

これまで飲酒量にフォーカスしてきたが、どのような酒の飲み方か、というあなたの飲酒パターンが「危険飲酒」か「有害飲酒」か、割と安全な飲み方かなどを知るためのテストがある。WHOが開発した国際標準検査、AUDIT(オーディット)というものだ。

一番よくまとめられているのはキリンビールのサイトなので紹介しよう。
まず【STEP1】で普段摂取しているアルコール量を知ろう
そして【STEP2】の「Audit」をやってみよう。

アルコールによる害を知るために、このAuditは極めて有用で簡単なテストだ。たった10問しかないので、気軽にできる。もしこのAuditで高得点がでたら、医療機関を介入させることが大切だ。アルコール依存症あるいはその一歩手前のプレアルコホリックの状態は「否認の病気」と言われるため、自らがその状態を認めることは難しいかもしれないが、健康的な生活をおくるためにはとても重要な事なので、医療機関を調べ専門家のアドバイスを受け入れて欲しい

ポイント4の結論 : Auditで自らの飲酒パターンをチェックしてみよう



5. 飲むスピードと水分について知りたい

さて、体質と飲酒量、それから飲酒パターンがわかったところで、もう少し現場の話をしよう。どれぐらいのスピードで飲むのが良いのか、またどの程度水分を取ればよいか、という話だ。
飲むスピードが速すぎると身体にとって良いことはない。ウィスキーの1杯あたりの量は30mlなので、ビール中ジョッキの1/10程度の量しかない。この程度なら、クイッといってしまおうか・・・そう考えるとしたら大変危険だ。
最低でも1杯(1ショット)は30分はかけて飲むのが良いだろう。

脳が「酔っ払ってきたな~」と感知し始めるには30分程度はかかるし、空腹時に飲むと急激に血中アルコール濃度が高くなる可能性があるので(ウィスキーは食後酒なのでこのケースは少ないだろうが)、ともかくゆっくり飲むのがよい。

また、アルコールには利尿作用があり、水分が失われ脱水症状になりやすいため、ウィスキーについてくるチェイサーはちょくちょく飲んでおこう。理合想的にはシングル1杯につき、コップ1杯の水を飲むと良いだろう。

ポイント5の結論 : 最初の30分は特にゆっくりと。シングル1杯につきコップ1杯の水を。




6. 避けるべき未成年飲酒とアルハラ

「未成年飲酒」と「アルハラ」(=アルコール・ハラスメント)は、一見つながりが薄いように思われる。しかし、どちらも「アルコールにまつわる知識不足が深刻な影響をおよぼし、意識せずに“加害者”になりやすい」という点で共通している。

未成年飲酒は、「ちょっと1杯ぐらいいいじゃないか。お前も飲め」的に大人が気軽に勧めがちだし、それがよもや深刻な問題に発展していく可能性があるなどと思っていないケースが多い。それはちょうど昔の飲酒運転のようなものだ(かつて日本にも「ほろ酔い程度なら大丈夫」とした時代があったが、今やだれもが飲酒運転は“重大な危険”であると認識している)
未成年飲酒のリスクは、下記の2つが代表的だ。

  1. 本人への身体的被害(脳の萎縮、アルコール依存症の高い危険、性機能の発達阻害)
  2. 社会的被害(暴行事件との関連性)

たとえ少量で一時的であっても、大人は未成年に飲酒を勧めてはいけない。

また、アルハラは、下記の5つがその定義だ。
  1. 飲酒の強要
    1. 上下関係や場の雰囲気を利用した、有言または無言の圧力
    2. 脅迫であるとみなされれば強要罪に問われる
  2. イッキ飲ませ
    1. ペース速く飲むことも含まれる
  3. 意図的な酔いつぶし
    1. 飲みつぶれることを目的として飲むこと。アルコールの有害な使用
    2. 傷害罪に問われる
  4. 飲めない人への配慮を欠くこと
    1. 体質や体調を無視して勧めること
    2. 飲めないことをからかったり侮辱すること、軽口をたたくこと
    3. 宴会で酒しか用意しないこと
  5. 酔ったうえでの迷惑行為
    1. セクハラ
    2. 暴言・暴力
    3. その他迷惑行為
(参考:アルハラの定義5項目 イッキ飲み防止連絡協議会

社会のいたるところでアルハラは起こりえるが、より深刻なのは大学生などの若年層だ。アルコールに対する知識と経験が不十分な状態でのアルハラは、最悪のケースで死を招く。
新歓コンパなどで行われる「アルコールを多量摂取させる」暴力的なイニシエーションが、ときに致死量にまで達してしまい、若者の命を奪ってしまう。知識のなさ、集団心理、アルコールによる判断力の低下が、その要因と考えられている。
大人として気をつけたいのは、小さなアルハラや、ちょっとした未成年飲酒がこれらの重大なリスクへの発展の可能性をはらんでいる、ということだろう。


ポイント6の結論 : 未成年飲酒とアルハラには完全ノー。



7. 定期的な健康診断

アルコールと肝臓の関係を知らない人は少ないだろう。そして肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、自覚症状がでたときにはかなり重度の状態も考えられる。だから、自覚症状がなくても定期的に検査し、自らの状態をチェックするのが望ましい。
なにもアルコールに限った話ではないが、年に1度は最寄りの機関で健康診断を受けるのが良いだろう。所属する組合や保険の状態により変わるが、新規で費用負担がかからない場合も多いし、自己負担の場合も1万円程度だろう。これは「年間の飲み代の一部」と思えば非常に安く感じることもできる。気になる人はよりリッチな検査を受けても良いだろうし、完全に個人の自由で納得行くまで検査するのが良い。



生活習慣病12項目+糖尿病セルフチェック


ポイント7の結論 : 定期的な検査で自らを大切にする。




以上、7つの「知っておきたいこと」を解説した。長い説明だったが、あなたが長期的にウィスキーを愉しみたいと考えている人であれば、これらの内容を楽しんでもらえただろうと思う。
7つの結論を下記にまとめよう。


  1. お酒の強さは先天的に決まっている。無理をしない&させないが重要
  2. 1日あたり、シングル2杯で愉しみましょう
  3. 多い日も、シングル3杯までにしたいですね
  4. Auditで自らの飲酒パターンをチェックしてみよう
  5. 最初の30分は特にゆっくりと。シングル1杯につきコップ1杯の水を
  6. 未成年飲酒とアルハラには完全ノー
  7. 定期的な検査で自らを大切にする


アルコールのポジティブとネガティブの両面を知ることで、ウィスキーを愉しめる大人でありたいと思う方へこの記事を贈る。

百薬の長とはいへど、よろづの病は酒よりこそ起これ。―― 吉田兼好 徒然草/第百七十五段
アルコールの過剰摂取は200以上の疾病や障害の原因である―― WHO Alcohol Key Facts

あなたにとってウィスキーが適量を愉しむものであり、人生を彩るものでありますように。冒頭に述べたとおり、これらの知識をどのように活かすかは完全にあなた次第でいい。

今宵も、よいウィスキーライフを。

あなたとウィスキーに良好な関係を





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