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レポート:余市蒸溜所への訪問6 ~熟成編~

その5に続き、日本最北端のウィスキー工場、ニッカの余市蒸溜所への訪問をレポートする。
今回は「蒸留器編」につづき、ウィスキーづくりの最後のパートである「熟成」だ。

ウィスキーのもっとも神秘的なパートであり、多くの人を惹きつけてやまない魅力であり、最高の価値、それはウィスキーができるまでに費やされた「時間の価値」だ。ウィスキーは最短でも3年ほどの時間を費やす。長熟と呼ばれるウィスキーになれば20年以上の時間がこの「熟成」に費やされる。麦をあれこれする時間はほんの数日だから、ウィスキーづくりの99%以上は「時間をかけ待つ」ことに費やされているのだ。

時間が、樽の中の“その液体”に力を与え、何かを奪い、何かを足していく。それは日々、年々、おこなわれていく。短いほうが良いとも、長いほうが良いとも言い切れない。短すぎればトゲトゲしいかもしれない、長すぎてはパワーが足りないかもしれない。程よく短ければフレッシュで力強い、程よくながければ複雑なニュアンスを持ちながらも主張がはっきりしているだろう。それはウィスキー個別に違っており、とても複雑で、なにが正解とは言えない。若い時にさっぱりダメなウィスキーも、そのまま寝かしていれば、素晴らしい香味を放つかもしれない。樽に詰めた時点では、そのウィスキーの価値は決まらず、まだ勝負がわからない。生まれでは決まらない、人間に近しい酒と言えるかもしれない。だからウィスキーを飲むときには、そのウィスキーの費やしてきた年月に、思いを馳せずにはいられなくなる。
3月末の雪の残る余市蒸溜所

きれいな空。そしてきれいな空気。

並ぶ建物は、すべてウィスキー貯蔵庫だ。

鍵のかかった扉を開ける。一般非公開。
暗い空間にウィスキーが眠っているのだ。

土間(下は土)に木を敷いて、その上にウィスキーが眠る。

見上げると梁はこうなっている

木造であることが湿度に影響を与える
1987年、この年の余市はWWAでワールドベストを受賞している。
日本のウィスキーの素晴らしさが広まった歴史的年だ。 
木槌でポンポンっと。するとフタが開く

ノージングさせてもらった。素晴らしい香り!
余市の繊細さとスウィートさ、そして力強さが完璧なバランス

眠る樽

夏と冬で樽は呼吸をする。
夏は樽の中の息を吐き出し、冬は外の空気を取り込むのだ。
これが、余市のウィスキーは余市で眠らせなければならない理由。
余市の空気、気候、すべての影響を受けさせるからだ。

フタ。木と布。



土間にしているのも湿度を高く保つためと言われる

このなかに大量のウィスキーが眠っている

ここの空気を吸って余市のウィスキーは育っていく

 いかがだろうか。動きがなく、とても静かでゆったりとした時間が流れているのを感じていただけただろうか。ここまでの工程は、煙でいぶしたり、お湯でかき混ぜたり、アルコールを生み出したり、それをぐつぐつ煮て蒸留したり、非常にアクティブな時間だったが、この「熟成」というパートだけは違う。何が違うか?それは人間の手を離れていることだ。管理できる余地はほとんどなく、人間は長い時をかけて見守るという決心してそれを受け入れるしかない。
そしてその「時間」がウィスキーを神秘的で魅惑的な酒にさせる。

この「熟成編」でウィスキーづくりの工程の紹介は終わりだ。ウィスキー製造工場としての機能はほぼ紹介した。しかし、この蒸溜所訪問レポートはあと少しつづく。

この素晴らしい蒸溜所をつくったマッサンこと竹鶴政孝と、その妻リタとの思い出に触れない訳にはいかないだろう。「旧竹鶴邸編」へとつづく。









レポート:余市蒸溜所への訪問5 ~蒸留器編~

その4の「発酵槽編」に続き、ニッカウイスキーの北海道工場、余市蒸溜所の訪問レポートを掲載する。今回は「蒸留器(じょうりゅうき)」編だ。

ウィスキー蒸溜所の中で、一番華やかな工程と言っても過言ではないだろう。
なんせウィスキー工場は「蒸溜所」と呼ばれるぐらいで、ウィスキー工場とは「蒸留をするところ」なのだ。この蒸留という工程が、ウィスキーを“香水のような神秘的な香りの爆発をする液体”に昇華する。

さて「蒸留(じょうりゅう)」とはどういった作業だろう?ちょっと説明しておこう。

蒸留の目的は、麦ジュースからウィスキー原酒を取り出すことだ。
ではどのような方法でウィスキー原酒を作るかといえば、下の図のように、

  1. 蒸留器(ポットスチル)の中に、
  2. 醗酵しアルコールを含んだ麦ジュース(ほとんどビールのようなもの)を入れて、
  3. ぐつぐつ煮る
  4. そして、「アルコール」や「香り成分」を蒸発させる
  5. それらを空中に放つ代わりに、冷やして、濃縮液(ウィスキーの原酒)を取り出す
という方法だ。(似たようなことは理科の実験でやったことがあるかもしれない)

蒸留のモデル図

この作業を2回くりかえし、アルコール度数は元の7%から、なんと60%程度へと一気に高められる。また、香り成分もぎゅっと濃くなり、さまざまなニュアンスを持つようになる。これがウィスキーが「生命の水」と呼ばれる由来だ。英語では蒸留酒はスピリッツspiritsとよばれるが、精霊とおなじ綴りと発音だ。火をつけると燃えるのは、火の精がいるから・・・そう考えられていたという説がある。錬金術士が生み出したこの蒸留器(ポットスチル)という不思議な装置は、神秘的なイメージをまとっていたのだろう。


では現代の余市蒸溜所ではどのように「蒸留」がおこなわれているか?実は、今どき珍しい「石炭による直火蒸留」だ。これは、“マッサン”こと竹鶴政孝がイギリス留学した当時は一般的な製造方法だったのだが、今ではより効率的なスチーム蒸留に主流が移っている。余市ではこの「石炭直火」が、ウィスキーに良い影響を与えると信じ、やり方を変えていない。

下のほんの17秒の動画を見てほしい。蒸溜器の並ぶ部屋全体の様子がわかる。



複数の蒸留器が並んでいるのがわかるだろう。蒸留器により味の個性も変わると言われている。

まさに火を使う、直火蒸留

スコップで石炭を取り出し

炉の中に職人技で投げ込む

あかあかと燃える火

職人が炉の中へ何気なしに石炭を放るのを、間近で撮影した。ぱちぱちと燃える石炭の音も愉しんでほしい。


ちなみに、現場はなかなかの温度だ。思わず蒸留器に見とれていると、焚き火にあたっているような熱量が顔を直撃する。

ポットスチルは銅製で、ウィスキー色なのだ

燃えている。この火がウィスキーの「余市」をつくる


閉じた炉

創業当時の一号機。竹鶴政孝も何度も触ったことだろう。

ポットスチルの上部を見るために上がってきた。一般非公開、感謝。

“スワンネック”と呼ばれる蒸留器の上部

それぞれのポットスチルの形は微妙に異なる

箕輪アンバサダーとポットスチル。大きさが想像してもらえると思う。


この入口から、掃除のために中に人が入ることができる


蒸留器の温度計。真正面から撮影。

ここは蒸気を噴出するところ



まだ新しいポットスチル。きれいな銅色だ。

蒸気の噴射口

上部のパーツ(スワンネック部)だけ新しい



石炭と使い込まれたスコップ



直火蒸留をおこなう余市のポットスチルには、こげつき防止の「底板」がある。蒸留器(ポットスチル)の底で、プロペラがぐるぐる回って、麦ジュースをかき混ぜてこげつきを防止するのだ。残念ながら底板そのものを見ることはできないが、外から底板をどうやって回しているのかがわかる動画がこれだ。(ちょっとマニアックだけれども)



さて、いかがだろうか。蒸留というウィスキーづくりで一番華やかなプロセスの雰囲気が伝わっただろうか。
この次の工程は、ウィスキーづくりの中でもっとも長い時間を使う「熟成」だ。



レポート:余市蒸溜所への訪問4 ~発酵槽編~

その3の「糖化釜(とうかがま)編」に続き、余市蒸溜所の訪問レポートをお届けする。

今回は「発酵槽」編だ。発酵槽(はっこうそう)が担当しているパートはなにか?
それは、「アルコールをつくり出す工程」だ。

考えてみれば当然だが、麦を原料にウィスキーができるとき、ウィスキー工場のどこかで「アルコールをつくり出す」という工程が存在している。当然でありながら、どこかそれは神秘的な感じもする。植物の麦から、人に酔いをもたらす魅惑の液体が生み出される工程なのだから。

その工程の神秘は酵母(イースト)菌により生み出されている。甘い麦ジュースの糖分を、この菌が食べて活動するとき、アルコールが生み出される。菌は単一の種類ではなく、似たような働きをする複数種の菌が同時に存在している。この“複数の菌のコンビネーション”は蒸溜所によって違い、それぞれのウィスキーの味わいに影響をもたらしているらしい。目に見えない菌によってウィスキーの味わいに違いが生まれているなんて、なんと神秘的だろう。

さて、その神秘を写真で確認していこう。

クリーン(清潔)なステンレスのタンクが並んでいた

タンクには番号が振られている

タンクの上部へ移動してみた。タンクの中はどうなっているだろう
タンクに付いた覗き窓

中では菌が活動し、反応が起きている

ちなみに、菌はアルコールのついでに二酸化炭素も生み出す。実はウィスキーづくりのここまでの工程はほとんどビールの工程と似ているが、ビールがなぜ炭酸飲料なのかといえば、この酵母(イースト)の生み出す二酸化炭素が液体に溶け込んでいるおかげなのだ。なお、ここまでのアルコール度数も6~7%で、ビールとほぼ一緒。

「蒸留にモロミ、輸送後タンク、空 確認。」
「送り初めに自動で空になる。」とある

中が泡立っているのがわかるだろうか。
アルコールを生み出す酵母菌が活躍中の証拠だ。



中を照らすライト

こちらは泡立ちがだいぶん引いてきている。
酵母菌の活動が弱まってきた証拠だ。

この発酵槽の大きな役割は前述のとおり「アルコールをつくり出す」ことだが、実はもうひとつ、別の大きな役割がある。それは、アルコールを生み出した後に、われわれを楽しませる「フレーバー」を生み出すという役割だ。

酵母菌が活躍してアルコールが生み出されると、麦ジュースのアルコール度数と二酸化炭素濃度が高まる。酸素(O2)が少なくなると、酵母菌はだんだんと動きが鈍くなって、上の写真のように泡を出さなくなる。その頃から活躍するのが酸素(O2)が少なくても活躍できる「乳酸菌」だ。

乳酸菌は酵母菌の生み出したフレーバーを、さらに豊かなものにする。例えば、フルーツのフレーバーがついたり、まろやかな酸味がついたりと、ウィスキーの香味に大いに影響を与える成分を、乳酸菌はせっせと生成してくれるのだ。


タンクは40,000Lもの容積がある


続いて、ウィスキー工場見学の目玉である「蒸留」工程のレポートだ。