その4の「発酵槽編」に続き、ニッカウイスキーの北海道工場、余市蒸溜所の訪問レポートを掲載する。今回は「蒸留器(じょうりゅうき)」編だ。
ウィスキー蒸溜所の中で、一番華やかな工程と言っても過言ではないだろう。
なんせウィスキー工場は「蒸溜所」と呼ばれるぐらいで、ウィスキー工場とは「蒸留をするところ」なのだ。この蒸留という工程が、ウィスキーを“香水のような神秘的な香りの爆発をする液体”に昇華する。
さて「蒸留(じょうりゅう)」とはどういった作業だろう?ちょっと説明しておこう。
蒸留の目的は、麦ジュースからウィスキー原酒を取り出すことだ。
ではどのような方法でウィスキー原酒を作るかといえば、下の図のように、
- 蒸留器(ポットスチル)の中に、
- 醗酵しアルコールを含んだ麦ジュース(ほとんどビールのようなもの)を入れて、
- ぐつぐつ煮る
- そして、「アルコール」や「香り成分」を蒸発させる
- それらを空中に放つ代わりに、冷やして、濃縮液(ウィスキーの原酒)を取り出す
という方法だ。(似たようなことは理科の実験でやったことがあるかもしれない)
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蒸留のモデル図 |
この作業を2回くりかえし、アルコール度数は元の7%から、なんと60%程度へと一気に高められる。また、香り成分もぎゅっと濃くなり、さまざまなニュアンスを持つようになる。これがウィスキーが「生命の水」と呼ばれる由来だ。英語では蒸留酒はスピリッツspiritsとよばれるが、精霊とおなじ綴りと発音だ。火をつけると燃えるのは、火の精がいるから・・・そう考えられていたという説がある。錬金術士が生み出したこの蒸留器(ポットスチル)という不思議な装置は、神秘的なイメージをまとっていたのだろう。
では現代の余市蒸溜所ではどのように「蒸留」がおこなわれているか?実は、今どき珍しい「石炭による直火蒸留」だ。これは、“マッサン”こと竹鶴政孝がイギリス留学した当時は一般的な製造方法だったのだが、今ではより効率的なスチーム蒸留に主流が移っている。余市ではこの「石炭直火」が、ウィスキーに良い影響を与えると信じ、やり方を変えていない。
下のほんの17秒の動画を見てほしい。蒸溜器の並ぶ部屋全体の様子がわかる。
複数の蒸留器が並んでいるのがわかるだろう。蒸留器により味の個性も変わると言われている。
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まさに火を使う、直火蒸留 |
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スコップで石炭を取り出し |
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炉の中に職人技で投げ込む |
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あかあかと燃える火 |
職人が炉の中へ何気なしに石炭を放るのを、間近で撮影した。ぱちぱちと燃える石炭の音も愉しんでほしい。
ちなみに、現場はなかなかの温度だ。思わず蒸留器に見とれていると、焚き火にあたっているような熱量が顔を直撃する。
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ポットスチルは銅製で、ウィスキー色なのだ |
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燃えている。この火がウィスキーの「余市」をつくる |
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閉じた炉 |
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創業当時の一号機。竹鶴政孝も何度も触ったことだろう。 |
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ポットスチルの上部を見るために上がってきた。一般非公開、感謝。 |
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“スワンネック”と呼ばれる蒸留器の上部 |
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それぞれのポットスチルの形は微妙に異なる |
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箕輪アンバサダーとポットスチル。大きさが想像してもらえると思う。 |
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この入口から、掃除のために中に人が入ることができる |
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蒸留器の温度計。真正面から撮影。 |
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ここは蒸気を噴出するところ |
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まだ新しいポットスチル。きれいな銅色だ。 |
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蒸気の噴射口 |
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上部のパーツ(スワンネック部)だけ新しい |
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石炭と使い込まれたスコップ |
直火蒸留をおこなう余市のポットスチルには、こげつき防止の「底板」がある。蒸留器(ポットスチル)の底で、プロペラがぐるぐる回って、麦ジュースをかき混ぜてこげつきを防止するのだ。残念ながら底板そのものを見ることはできないが、外から底板をどうやって回しているのかがわかる動画がこれだ。(ちょっとマニアックだけれども)
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