ウィスキーが製造される一番最初の工程として案内されたのは「キルン」という建物だった。キルンとは、麦芽乾燥塔(ばくが かんそうとう)のことで、ウィスキーの原料である麦芽を乾燥させるときに「スモーキー」なフレーバーをつけることができる重要な建物だ。
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キルンを紹介してくださった |
そもそもなんで麦芽を乾燥させるの?という疑問が湧いてくると思う。とつぜん専門的な話になってしまうので、ここではいったん遠回りのようだが、「ウィスキーが何によってできているのか」をざっくりと説明しておこう。そのほうが、快適に工場見学のレポートを読んでもらえると思う。
ウィスキーを分解すれば、3つの要素が浮かび上がってくる。
ウィスキー = [ アルコール ] + [ 樽 ] + [ 時間 ]
原料の「アルコール」を「樽」に入れて、数年以上の「時間」をかけて寝かせておくと、魅惑的なコハク色のウィスキーとなる。ではその原料のアルコールはどうやって作っているのか?というと・・・
アルコール = [ 糖分 ] + [ 微生物 ]
「微生物」が「糖分」をエサにして活動したとき、副産物で生まれるのが「アルコール」だ。
ではこの微生物たちのエサとなる糖分はどこから取り出すかといえば?
糖分 = [ 麦のデンプン ] + [ 麦の芽(のなかの酵素) ]
麦はタネの状態では、胚と「デンプン」を持っているだけだ。そのタネが発芽するときに、蓄えていたデンプンを“芽”のもつ特殊な「酵素」によって分解して、「糖分」にする。しかし、このまま麦が成長すると糖分がなくなってしまうので、発芽した状態で麦の成長を止める。
麦の成長を止めるために、麦を乾燥させるのだ。この、発芽した麦(“モルト”と呼ばれるもの)を、乾燥させる建物が「キルン」だ。(やっとこの話に戻ってきた)
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さて、キルンの中に |
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乾燥させる熱源の、燃料のピート(泥炭)を手にとって |
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意外と軽いんですよ~ |
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こんなディティール。昔は石狩平野で採っていたらしい |
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これを炉の中に |
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燃えている。あゝスモーキーな香り。
このピートのお陰で、ウィスキーにスモーキーフレーバーが宿る。 |
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建物の上部には乾燥させたいモルト(麦芽)がある |
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外から見ると、排煙する窓が開いている |
昔、竹鶴政孝が設立した頃は、北海道の麦、石狩川の水、石狩平野の泥炭(ピート)でウィスキーを作っていたようだ。必要な原料は全てこの地でまかなえた。今は、余市も(そして世界的にほとんどの蒸溜所も)麦芽の専門業者からモルトを買い付けているので、このキルンは当時を偲ぶ象徴である。現在は実質の稼働はしておらず、博物館的な存在だ。
しかしながら、ニッカの方々の話を伺う内に、竹鶴政孝がこの北海道の地にこだわったひとつの理由に触れられた気がした。
さて次は「
糖化釜(とうかがま)編」へと続く。