レビュー:ボウモア1987 25年 枯れてくたびれた・・

BERRY BROs & RUDD のBOWMORE 1987 25yo(ベリーブラザーズ&ラッドのボウモア25年)を飲んだ。1980年代の希少なボウモア。88点。
ボウモア1987 23年と同じシリーズで、さらに2年熟成させたものだ。23年は驚異の98点だったが・・。

1987年のボウモア。80年代の輝き。



【評価】
グラスに鼻をやれば、煙たく香るくたびれたシュガー。い草の爽やかさと酸味。その香りは、くぐもっているのに存在感を放つ。
口に流し込めば、なめらかで、生ぬるく入ってくる。海岸の岩、甘いシロップ、鉛色の空で海は割と穏やかな風景が浮かび、ほのかに香る金属、そして、枯れ草の後味。
枯れてくたびれ果てた、だが穏やかで個性的なボウモア。

【Kawasaki Point】
88point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:BOWMORE 25yo (ボウモア25年)
地域:Islay (アイラ)
樽: Oak  オーク
ボトル:BERRY BROs & RUDD, ベリーブラザーズ&ラッド

海岸の岩、甘いシロップ

ほのかに香る金属、そして、枯れ草の後味

枯れてくたびれ果てた、だが穏やかで個性的なボウモア



レビュー:ラガブーリン 16年 ピートと樽香の螺旋

LAGAVULIN 16yo (ラガブーリン16年熟成)を飲んだ。88点。
映画『天使の分け前』でも紹介されていたウィスキーだ。

“アイラ島のプリンス”とも称されるラガヴーリン

【評価】
グラスに鼻を近づければ、麦、酸味、ピート香の先端は丸みを帯びているが、同時に鋭さも忘れておらず、雄雄しく上品。素朴でありながら洗練されている。ミレーの絵画のようなバランス。
グラスを傾け少量口に含めば、口当たりは柔らかいが、激しくピートが樽の香りと螺旋を描きながら主張する。しかしくどさがまったくなく、後味は満足のいく絵を描き終わったあとかのよう。
充実感を味わうウィスキー。

【Kawasaki Point】
88point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:LAGAVULIN 16yo (ラガヴーリン16年熟成)
地域:Islay, アイラ
樽:Oak, オーク
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル

ピート香の先端は丸みを帯びているが、
同時に鋭さも忘れていない

アイラ島のポートエリン地区に位置するラガブーリンの設立は1816年


充実感を味わうウィスキー

イギリスのアイラ島に位置するラガブーリン蒸留所の場所を、地図で確かめてみて。

大きな地図で見る



レビュー:ブラックニッカ クリア (CWシリーズ)

ブラックニッカ クリア(NIKKA BLACK Clear)を飲んだ。56点。

コンビニでよく見かけるウィスキーを真剣にレビューしようというCW(コンビニ・ウィスキー)シリーズ。実勢価格は300~500円程度の180mlの「」「TORYS」「ブラック クリア」の3つ。さて、第三段は『ブラッククリア』、その香味やいかに。

コンビニウィスキーたち。左から、トリス、ブラックニッカ、角。


【評価】
グラスに鼻を近づければ、焦がした穀物のうまみ、樽の甘み。ずっと嗅いでいたい“焦がし感”。
口に含めば、穏やかにして芳醇、軽く味わえるのに深い、モルト(麦芽)とグレーン(穀物)の饗宴。すっきりまろやかな鉄分。
ウィスキーの芳ばしさとは何かを知り、味わうためのウィスキー。

ブラックニッカ


※日本を代表するコンビニ・ウィスキーの双頭を張るのが「角」と「ブラック クリア」だが、その違いにも分かりやすく言及しておこう。味わうときの参考にしてもらえたら。

」の味のコンセプトは“受け入れられやすい甘み”、“ウィスキーの苦味の再現”といったところだろう。苦味のエッセンスが甘みを引き立てるようにデザインされている。「味の対象性」を利用した普遍的な組み合わせだ。
対して「ブラック クリア」は“穀物の焦がしの芳ばしさ”、“やや抑えた甘みによるクリア感”といったところ。口当たり、ノド越しの柔らかさと、後からの味わいの余韻が両立するようにデザインされている。「時間経過」を利用した普遍的な味の設計だ。

両方のウィスキーを上記の観点で飲み比べるのも楽しいかもしれない。
「味の対象性」と「時間経過」。安価なので手軽だ。

【Kawasaki Point】
56point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:ブラックニッカ クリア(NIKKA BLACK Clear)
地域:Japan, 日本
樽:Oak,  オーク
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル

このおじさんの正式なお名前は
「ニッカおじさん」ではなく「ローリー卿」だそうだ。


ニッカウィスキーのエンブレム(紋章)


芳ばしさとは何かを知り、味わうためのウィスキー。






レビュー:トリス エクストラ ウィスキー (CWシリーズ)

トリス エクストラ ウィスキー(TORYS Extra Whisky)を飲んだ。52点。

CWシリーズ、すなわちコンビニウィスキーを真剣にレビューしようというシリーズ。コンビニでよく見かける実勢価格は300~500円程度の180mlのボトルをテイスティングしていく。銘柄は、「」「TORYS」「ブラック クリア」の3つ。さて、第二段は『トリス』、その香味やいかに。

コンビにでもCMでもよく見かける。左からトリス、ブラッククリア、角。


【評価】
グラスに鼻を近づければ、甘く穏やかな麦。麦ジュース、花の蜜、バナナ、パイナップル、イチジク。
口に含めば、強め、一瞬でアルコールとともにパッと華やぐ。余韻にほんのわずかな樽の香り。
フルーティでクリア、何もないかと思いきや、意外に爪痕を残すウィスキー。

あの陽気なおじさん(アンクル・トリス)が笑っている

【Kawasaki Point】
52point

【基本データ】
銘柄:トリス エクストラ ウィスキー(TORYS Extra Whisky)
地域:Japan, 日本
樽:Oak,  オーク
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル


180mlのボトルはスリムだ

意外に爪痕を残すコンビニウィスキー



レビュー:サントリーウィスキー 角瓶 (CWシリーズ)

Suntory Whisky 角瓶(サントリーウィスキー 角瓶)を飲んだ。56点。

今回は、コンビニに置いてあるウィスキー、つまり「CW(コンビニ・ウィスキー)」を真剣にレビューしようという試み。本格的なテイスティングブログではかなり珍しい試み。(※ちなみに缶のハイボールをレビューしているシリーズもある)。CWシリーズの「角」「TORYS「ブラック クリア」以上の3つの銘柄をテイスティングしていく。実勢価格は300~500円程度の180mlのボトルだ。さて、まずは『角』、その香味やいかに。

CW(コンビニウィスキー)シリーズ。右から角、ブラッククリア、トリス。


【評価】
グラスに鼻を近づければ、砂糖を絡めて甘く焦がした麦、トウキビ、樽の木。ハッカ。
口に含めば、スムーズに入り、甘みと樽の渋みを同時に感じさせ、スッとほどよく消えて、グレーンが主張しすぎずに終わる。
ブレンデッドのバランスが良いウィスキー。甘みとメンソールの清涼感、それととっつきやすい苦味によって、「甘みだけがうまみではない。ウィスキーの世界へようこそ」ということを物語っている。

180mlの角瓶。存在感のある瓶だ。

※レビューは以上だが、今や日本で一番売れているウィスキーということを考慮すると、若干の付記が必要だろう。この角の苦味やメンソール感は飽くまでも「(ウィスキーを知らなかった昔の)日本人にとっつきやすい」ということを意図してつくられている。もちろん時代によって同じ「角」でもブレンドの内容は変えているはずだが、飽くまでも「ウィスキーを知らない人のためのウィスキー」であって、その位置づけは変わらない。
だからもしあなたがこの「角」を飲んで「ウィスキーって苦手だなぁ」と思われるのであれば、それはちょっと待ってほしい。例えば、ハンバーガーの肉が嫌いだからって、「牛肉は苦手だなぁ」とは思わないのと一緒だ。極端に言えば、ハンバーガーのパテは美味しいと思わないけど、神戸牛フィレは美味しいと思う、ということだってあるだろう。
「角」は親しみやすくて日本で最も売れているけれど、ウィスキーを代表しているわけではない、ということを覚えておいてほしい。

【Kawasaki Point】
56point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:Suntory Whisky 角瓶(サントリーウィスキー 角瓶)
地域:Japan, 日本
樽:Oak,  オーク
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル

角瓶のディティール

サントリーの紋章

日本では一番古い部類のウィスキー

180mlのスリムさは素晴らしい

「甘みだけがうまみではない。ウィスキーの世界へようこそ」




映画のレビュー:ネタバレ編 『天使の分け前』 賛否両論

事実上、世界初のウィスキー映画である『天使の分け前』について、賛否両論あるようだ。これはウィスキー市場にとっては良いことなのかもしれない。(当ブログのレビューはこちら

映画が公開されて日も経ったことだし、賛否両論のネタバレの感想と、私の見解を以下に書こうと思う。それを読んで、まるであなたと私がバーで映画談義を深めているような感覚を持ってもらえると嬉しい。

公式サイトより。賛否両論の『天使の分け前』だ。

賛否両論のネタバレ感想


決してウィスキーのサクセスストーリー(成功物語)ではないということについて


やはりまずは「主人公が更生してないじゃないか!もっと神がかりなテイスティング能力を発揮してどんどん真っ当な道に進むかと思ったのに!」という意見だ。これはやはり、映画の予告編でテイスティングをするシーンがそれを予感させたし、まぁ予告編を見ずとも、誰もがなんとなしに期待してしまうストーリーラインだろう。ウィスキー好きなら尚さら、ウィスキーを希望と成功の詰まった象徴として描いてほしいと潜在的に思うものだ。

しかし私はこうも思う。
「もしウィスキーの天才的なテイスティング能力を発揮させる“ウィスキーヒーロー”みたいな分かりやすい人物が描かれていたら、それはそれで冷めるだろうな」と。「ワインならそれもありだけど、ウィスキーでそんな安直なストーリーは嘘っぽい」と。
あなたはどう思っただろうか。


「クズ」の描写にかなりの時間をかけていることについて


つぎに「この映画に、被害者と向き合わせる場面までの綿密な“クズ”の描写は必要なかったのではないか?」という意見だ。確かに、被害者は人生めちゃくちゃだし、喧嘩のふっかけ方も異常だ。たしかにちょっと日本人的な感覚からすると「やりすぎじゃね?映画の中で描く必要あった?」と思うような描きっぷりだ。

ただ、なんだか調べていくと・・・巨匠ケン・ローチ監督「The Angels' Share/天使の分け前 」鑑賞にあたり知っておきたい2、3の事項によれば、

  • グラスゴー東部は英国の失業率平均の倍
  • 暴力沙汰絶えず警察の統率イマイチで貧困と暴力とドラッグのスパイラル
  • 主役は実際にその地域の子
  • 実際に「撃ったり撃たれたり、刺したり刺されたり」の日常
  • 主役の子は銃撃戦で4年の服役経験あり
  • この映画のプレミアの際、主役の母親はヘロイン中毒
  • 父親もヘロイン中毒だったけど初のリハビリに成功
  • 主役の子の顔の傷は本物(兄と喧嘩してできた)

という、、映画の世界よりもっとスゴイ。
なんなら映画の中での「クズ」の描き方がちょっとオシャレなんじゃないの、って気がしてくる。ちょっと見方が変わってこないだろうか。主役の子も映画初デビューで主役の割りに演技ができてるなぁと思っていたけれど、むしろ経験からにじみでてくるものだったのか・・。
あなたはこれらの事実についてどう思われただろうか。



結局酒を盗む、という行為について


やはり最大の賛否が分かれるポイントはエンディングだ。「結局、ウィスキー盗んだらダメじゃん!」というものだ。それでは天使の分け前ではなく、“盗人(ぬすっと)の分け前”ということだ。「それを天使の分け前って言われてもねぇ・・・」という感想。たしかに、ハッピーな分け前かどうか、というとかなり微妙だ。しかしエンディングはハッピーエンドな描かれ方と音楽で陽気に終わる。ここに違和感を持つ人も多いようだ。

しかし私はこうも思う。
結構誠実な描き方なのではないかと。考えてみてもほしい。もしこれがハリウッド映画なら?人のお金を盗む人や大勢を殺す人がヒーローっぽく描かれていて、その際にはハッピーエンディングでも「ダメじゃないか!あんなに盗んだり、殺したりして!」とは誰も本気で怒らない。

そう、これは飽くまでもフィクションだ。

盗みを推奨しているわけじゃない。誰もジャッキー・チェンのアクション観るときにぐちゃぐちゃに壊される街とかお店とかのことをどうも思わない。あれはフィクションなので、その部分に違和感を覚えるより、「アクション楽しかったな~」とか思う。それと一緒だと思う。でもリアリティのある描き方なので、あの「盗み」が引っかかるのだ。

また、劇的に更生しないのもある程度のリアリティがあってよいのではと思う。いくらでも更生するという描き方も出来ただろうし、盗む以外の描き方もあっただろうし、盗むにしたって“やむなく”感をいくらでも演出できたはずだ。ただそれをしなかったところに、この映画のグラスゴーの現状に対するリアリティ、誠実さが表れているのではないかと思う。

最後のシーンでは、「あなたってやんちゃなんだから」と彼女に言われた主人公が、ウィンクして終わる。まさかのウィンク!この最後のシーンのポップさが、監督からのメッセージ。「この物語はフィクションだよ。そんなにすぐに希望が持てるわけじゃないけど、このヒドイ現状に対して、もしウィスキーがきっかけで、ほんの少しでも希望が持てたなら・・・そんなフィクションだよ」と書く代わりだったようにも思う。

さて、あなたはどう思っただろうか。


バーなどでウィスキーのグラスを傾けながら、映画談義も楽しいかもしれない。
今宵もよいウィスキーライフを。



追記

※ケン・ローチ監督のインタヴュー記事
仕事こそが希望、仕事を持つことで人は自分に誇りを持つことが出来るんだ


※脚本を書いたポール・ラヴァティのインタヴュー記事(英語)
The Filmmakers’ Portrait Series: Paul Laverty
英語なのでほんのちょっとつまんで説明を。

  • スコットランドの国民的飲み物でもあり、巨大な産業でもあるウィスキーをその土地の若者がほとんど口にしていないことなど、多くの矛盾を入れ込んだことなどを語っている。
  • また、「若者が自らの国の文化、ウィスキーやエディンバラ城を知らないことが描かれています。彼ら(若者)の目から見えているものは何なのでしょう?」という問いに対して、「スコットランドの25歳以下の若者の60%に職がない危機的な状況。彼らは仕事や、家族や、安全な生活を望んでいるが、ヨーロッパで1000万人の若者がそれができない状況」と答え、労働者階級の若者の状況について描きたかった思いなども語られている。


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