なぜウィスキーは最初から美味いと思えないか? 後編

なぜウィスキーは最初から美味いと思えないか? 前編からの続き。
前編では、人には「経験値を重ねウィスキーを好きになる臨界点」があり、それは「アクワイアード・テイスト(後天的な味覚)」と呼ばれていることを紹介した。
後編ではさらに掘り下げて、人がいかに「アクワイアード・テイスト」を獲得するか、そしてウィスキーを好きになるためにはどのようにすれば良いかを紹介する。「ウィスキーを好きになるメカニズム」について書かれた文章はほとんど見当たらないから、この記事はボリュームを持たせた。

ウィスキーはいかに人を魅了するか
いかにアクワイアード・テイスト(=後天的な味覚)は育つのか。
まだ味覚が育っていない子供の頃を考えてみるとわかりやすい。

子供にとっての味覚とは

実は人間には先天的な味覚も存在する。子供の頃、文句なしに「うまい!」と感じるのは、「甘み」と「塩み」だ。「甘み」は「エネルギー源」を意味している。糖のエネルギーがなければ人間は生きていけない。また、「塩み」も同様に生命維持に不可欠だ。
子供の味覚にとって「苦味」が意味しているのは「毒」だ。判断力のないうちは苦味は拒否することが生きるために必要なことだ。また、「酸味」が意味しているのは「腐敗」で、これも拒否したほうが得策なのだ。
だからお父さんのビールを一口飲まされた子供は「大人はなぜこの茶色い液体を嬉しがるのか分からない」と心の底から思う。だってそれは子供の味覚にとっての「毒」だから。


食するものによって味覚が発達する

甘いものだけでは栄養が偏る。子供の成長とは、甘み以外の経験を重ねることだ。
そして下記の3つの要素で「アクワイアード・テイスト」は育つ。
  • 頻度
  • 関連情報の豊富さ

これはまさにウィスキーを旨いと思うようになるプロセスと同じなので、ひとつずつ解説していこう。

経験の頻度を増す

その味を経験する頻度が高ければ高いほど、つまり回数も多ければ多いほど、その味に対する感受性が深くなる。これは私がウィスキーを最初50杯飲むまでは美味いと感じず、その後に「美味いかも!」と感じ始めたことと同じだ。コーヒーに砂糖やミルクを入れないと美味いと感じなかったのに、いつしか砂糖の量が減り、ミルクなしになり、ブラックでも美味いと感じるようになるのは、コーヒーの経験頻度が多くなり、その味の繊細さが知覚出来るようになったからだ。

経験の幅が拡がる

ある種の味の経験の幅が大きければ大きいほど、アクワイアード・テイストは開発されていく。ビールの飲み始めに、アサヒもキリンもサッポロもサントリーもないが、同じビールの中で幅をもって経験していくと、これらの違いに気がつけるようになる。最初は普通のビールと黒ビールの違いに気がつくようになる。その後に、ホップを利かせたビールと、ドライなビールの違いに気がつくようになるだろう。むろん、A~Bまでの狭い経験よりも、より幅広くA~Zまで経験したほうが、深く味わいを獲得できる。


関連情報の豊富さ

実はここが最大のミソで、「関連情報」により味覚は変化する。
中の液体の色が分からないようにした黒いグラスで、味を確かめることを「ブラインド・テイスティング」と言うが、これでは本当の「味」は分からない。色も味に影響するからだ。(※ブラインド・テイスティングは特殊な遊び、またはブランド名に左右されない特殊な審査に使用する)
嗅覚と味覚以外は、味に関係ないのでは?と思うだろう。実際には、視覚情報も味に関係する。青く着色した肉は、不味く感じてしまう。実際にレモン果汁はほとんど入っていないのに、黄色く着色された液体は、その味わいに「レモン感」が増されて感じられる。
また、視覚だけでなく、口にするウィスキーの味や香りについての情報も味わいに影響する。ウィスキーに薬の味がすることや、フルーツの香り、蜂蜜の香り、バターの香りなどがする、という情報があれば、味の感じ方が違ってくる。


味わいと記憶

ところで、なぜ関連情報でウィスキーの味わいが違うか?
それは、味わいとは、味に関する記憶だからだ。それこそが「アクワイアード・テイスト」の正体だ。
例えば、子供の頃分からなかった「酸味」がうまく感じられるのは、腐敗ではなく、「醗酵」という自然作用の恩恵を知り、記憶するからだ。「この酸っぱさは、よい酸っぱさだ!」と。「煙たさ」がうまく感じられるのは、火を使い肉や野菜が美味くなることを知るから。バーベキューの美味さは、あの煙たさと共に記憶されている。だから、ウィスキーの煙たさに出会ったとき、その記憶を引っ張り出して「美味さ」として知覚できるようになる。「ムムッ、この煙たさはおいしさの証だ!私にはこの経験があるゾ!」と。


ウィスキーの“香り探し”

数百種の香りの複合体であるウィスキーは、まさにアクワイアード・テイストのかたまりだ。
しかし、はじめてウィスキーに出会ったとき、その香りがあまりに多すぎて、面食らってしまう。ひとつずつの味わいの記憶をうまく引っ張ってこれない。「そんなにいっぺんに言われてもよく分からないよ」状態になる。だから最初、ウィスキーは美味いと思えない。香りの情報量が多すぎるのだ。
では、どうすればよりウィスキーの美味さに気づけるか?
それには、「ウィスキーの香り探し」をしてほしい。ウィスキーはただ漫然と飲むのではなく、その香りの要素をさがしながら飲むことが重要だ。そのための補助として、ウィスキーのテイスティング・コメントがある。このテイスティング・コメントを参考にしながら「ウィスキーの香り探し」をする。
「バナナの香りか・・・うん、確かにそんな香りがするな。。潮の香りもするのか?どれどれ。ほー、そういわれりゃそうだ」などと、ひとつずつ香りを探して、確かめてほしい。
そうするとあなたの脳が「おや、確かにこの香りは前にも味わったことがあるぞ。これはいいという記憶があるゾ。とすると、このウィスキーは、いいものがたくさん詰まった液体だ!」と認識できるようになる。果ては「この香りのハーモニーは、アートだ!」とすら感じるようになる。

これがウィスキーというアクワイアード・テイストの獲得の仕方の最大のコツだ。
(このようにウィスキーとは、あなたの経験を映し出す酒だ。)


最後のまとめ

Q. なぜウィスキーは最初から美味いと思えないのか?
A. 後天的に獲得される「大人の味」(アクワイアード・テイスト)だから。

Q. どうしたらウィスキーが美味いと思えるようになるか?
A. ひとことで言えば「経験値を上げる」こと。
  次の3ステップを踏むと良い。

  STEP1. ちょくちょく飲んでみる(量ではない、頻度だ)
  STEP2. 多くの種類を試してみる(タイプの違うウィスキーを)
  STEP3. テイスティング・コメントを参考に「香りさがし」をする(これが最大のコツ)



この記事をきっかけに多くの人がウィスキーを愉しむことを願っています。
今宵も、良いウィスキー・ライフを。



なぜウィスキーは最初から美味いと思えないか? 前編

ウィスキーの飲み手としての大人(おとな)

二十歳(はたち)の誕生日にウィスキーを飲んだとして、それを美味いと感じることはないだろう。
法律上は大人でも、ウィスキーの飲み手としては、まだ大人とはいえない。

なぜウィスキーは最初から、うまい!と思えないのか?
言い換えれば、最初の内、ウィスキーがはまずいと感じられるのはなぜか?
ある時点まで「まずかった」ウィスキーが、ある時点から「うまく」感じるようになる。その時点はいつくるのか?

琥珀色の魅惑の液体、ウィスキー

ウィスキーの臨界点

私の場合は、ウィスキーなんて最初の50杯ぐらいは美味いと感じなかった。なんとなく、憧れで飲んでいた酒だ。ジャーキーをつまみながら、ジャックダニエルをロックで、そう言うとカッコよい。木のカウンターの焼肉屋さんで、そうですね、白州をロックで、そういうとなんだか大人な感じがした。けれども味はわからなかった。強めのチビチビやる酒だ、ぐらいに思っていた。
ある時点で「あれ、これって美味いかも」と思い始めて今に到る。今にして思えば、どのように味わえばよいか、ウィスキーってそもそもどんな酒か、そんな情報がもっとあれば50杯も飲まずに済んだのではと思うので、そんな人のために、このブログを始めたわけだ。

さて、誰にでも私が経験した最初の50杯のように、「経験値を重ねウィスキーを好きになる臨界点」がある。その臨界点より前までは美味いと感じないのだ。
これを、
アクワイアード・テイスト Acquired Taste = 後天的な味覚
と呼ぶ。
ネット上の多くの記事では、ここまでの説明で終わっているだろう。でも、ここからがポイントだ。
割と一般的な「アクワイアード・テイスト」には、何があるだろう?

  • わさび
  • サザエのにがいところ
  • コーヒー
  • ビール
  • シガー
  • 納豆
  • チーズ
  • 坦々麺
  • 本格カレー
  • キムチ
  • さば寿司
  • 燻製全般
  • ドリアン

こう並べると「あ~なるほどぉ」な感覚があるのではないだろうか。
味覚で説明すると、「酸味」「辛み」「苦味」「煙たさ」が代表的なアクワイアード・テイストだ。
もちろんあなたにも経験があるだろう。


では、人はどのようにしてこのアクワイアード・テイストを獲得するのだろうか?
そこにウィスキーを好きになるメカニズムのヒントがあるのではないだろうか?
それは後編に続く


レビュー:トマーティン30年 国分300周年限定

TOMATIN 30yo KOKUBU 300 years Anniversary(トマーティン30年 国分300周年記念)を飲んだ。90点。
昨年(2012年)、大手お酒卸の国分が創業300周年を記念し、トマーティンの大キャンペーンを張った。全国を大型バスで巡りイベントを催した。この頃、トマーティン推しのバーも多かったはず。また、今回紹介するボトルを発表した。なんでもオロロソシェリー樽のみで30年熟成させた貴重な原酒らしい。ボリュームがあまり取れなかったのかボトルは325ml、通常の750mlの約半分。

【評価】
香りを嗅げば、厚みのある木の板を連想させる。その表面は少し焦げている。渋いが、フローラル。セメダイン。風に揺らぐ色とりどりの花々が、ある瞬間を切り取った写真のように、ピタッと香りのバランスを固定される。その写真は日焼けした紙のアルバムに貼られ、郷愁の香りとなる。
口に含めば、まろやかな甘みと重み。夜間飛行のよう。しじまの闇の中をプロペラの音だけで進む。この味の重みで瞑想し、生まれてから今までのすべてを洗い流したくなる。
静かに飲む、爽やかなのに深いウィスキー。

【Kawasaki Point】
90point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:TOMATIN 30yo KOKUBU 300 years Anniversary(トマーティン30年 国分300周年記念)
地域:Highland ハイランド
樽:Oak, Sherry, オーク、シェリー
ボトル:KOKUBU, 国分


香りを嗅げば、厚みのある木の板を連想させる

まろやかな甘みと重み。夜間飛行のよう

ド・シェリーな味わい。爽やかなのに深いウィスキー

トマーティン蒸留所の近くには、ネッシーでおなじみネス湖があるって知ってました?
地図を拡大して確かめてみて。

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レビュー:白ハイボール(缶) 潔さあっぱれ

白ハイボール(缶)を飲んだ。缶の商品には点を付けないのでポイントなし。
あまりウィスキーのイメージのないKIRINからリリースされている。
その味と香りは意外にも・・・・。詳しくは後述。


【評価】
香りはキウイフルーツ、イチゴジャムの乗った焼き菓子、イチジクのジャム。
口に含めば、まろやかな燻製の煙と、フルーティさが同居する。後味にかすかに麦の香り。
白ワインのようでそうでないのは、後味のにがみと麦の焼いた香りがあるからだろう。
缶のハイボールの中ではバツグンの出来(今回、過去の記事:角ハイボール 濃いめに与えた「缶の限界までいったウィスキー」という評価は撤回する)。これなら食事時に買って飲んでも良いと思わせるレベル。サラダにも合うだろうし、チーズを焼いた料理にも合うだろう。

この商品ではホワイトドックといって、樽で熟成させる前のウィスキーを使用しているそうだ(ウィスキー好きの人にとっては「ニューポット」という表現のほうがピンとくるのでは)。なるほど、そのせいで麦の香りがちゃんとあるのか、と納得。
通常、缶の商品はコストを抑えるため熟成年数の若いウィスキーを使わざるを得ないだろう。そうすると、普段しっかりと熟成されたウィスキーを飲んでいる人は満足できない。それならいっそ樽熟成を省いて、ニューポットで勝負、これで味をまとめる、という潔さはなかなか天晴れだ。

【Kawasaki Point】
-point(ポイントなし)
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:白ハイボール
地域:日本 (富士御殿場蒸留所・・かな?)
樽:なし(ニューポットのため)
ボトル:オフィシャルボトル



香りはキウイフルーツ、イチゴジャムの乗った焼き菓子

ニューポットで勝負の潔さはなかなか天晴れ

燻製の煙と、フルーティさが同居