新・バーの十戒

「バーの十戒」と言えば、かの有名なマンガ「Bartender」の作者の城アラキさんが示したものだ。
例えば「カウンターで寝てはいけない」などマナーについて書かれている。
この「バーの十戒」に敬意を示しつつ、「新・バーの十戒」を発表する。「新・バーの十戒」は、より初心者にも分かりやすく、慣れた人なら「なるほど」と言える内容にした。


新・バーの十戒

  1. バーテンダーのことをバーテンと呼んではならない
  2. 酒の香りを匂いと言ってはならない
  3. バーテンダーを急かしてはならない
  4. 大声でしゃべってはならない
  5. 出された酒が好みではなかった時、嘘をついてはならない
  6. 乱れてはならない
  7. 酒の愉しみ方にルールがあると思ってはならない
  8. それが誰であれ説教をしてはならない
  9. 過去に安くしてもらったとしても言及してはならない
  10. 気に入らないバーには二度と足を踏み入れてはならない

新・バーの十戒:解説編

  1. バーテンという呼び方は、蔑視のニュアンスが含まれますのでご注意を。(バーテンダー+フーテン=バーテン、という説も)
  2. 「におい」には異臭というニュアンスがあるので、ぜひ「香り」と表現しましょう。
  3. 急かしたところでそのバーテンダーさんの能力以上には速くなりません。心に余裕を持ちましょう。
  4. だだっ広い空間ではないので、そのバーの雰囲気にあわせた声のボリュームを。
  5. 好みでない酒はそう伝えましょう。バーテンダーさんのメモリーに記録され、次回に役立ちます。
  6. 酒は「決して乱れず」が美しいです。飲みすぎず、姿勢も言動もシャンとしていましょう。
  7. 酒の飲み方はそれぞれお好きなように。ほかの人の注文にも正解・不正解はないのです。
  8. 最悪なのはマスターへの説教です。バーは良くも悪くもマスターの空間ですから、説教するぐらいなら行かなきゃいいんです。
  9. 何らかのタイミングで安くしてくれた情報を特に他のお客さんにバラしてはいけません。せっかくの厚意をアダで返さないように。そのとき一回きりのありがたいものとして心にしまっておきましょう。「あの時は安くしてくれた・・」などとチマチマしたことは言わないように。
  10. よいバーが栄え、よくないバーが廃れるように、よいバーには足を運び、よくないバーには二度と行かない、という直接行動でバーを評価しましょう。あなたの感覚で評価してください。

補足

尚、城アラキさんのバーの十戒の中に「5千円以下ではカードで支払わない」という項目がありますが、これは完全に間違っています。カード払いができる店では、いくらであってもカードで支払ってよいのです。手数料がかかる云々の解説もありますが、金額に関わらず手数料は同じパーセンテージで掛かるので、金額によってカード支払いをする・しないを分ける意味がありません。また、店側のキャッシュフローを考えるなら、むしろ大きな金額では現金払いのほうが良いということになります。ただ、いずれにせよ、カード払いができる店では、いくらであってもカードで支払ってよいのです。それが不都合な店は、カード支払いを導入しなければ良いだけなのです。これは、そのお店の経営判断であって、お客さんが配慮することではありません。このカード支払いに関する十戒は、経営オンチな店を育ててしまう危険性があるので、特に言及しておきました。ちゃんと経営ができる、というのは良いバーの条件ですから。


酒の基本は決して乱れず。それさえできれば後は・・


以上、心の片隅に留めながら、今日もよいウィスキー・ライフを。



レビュー:余市1987 22年 シングル・カスク あたたかさと安らぎ

余市1987 22年 シングル・カスク(Yoichi 1987 22yo Single Cask)を飲んだ。87点。
「1987」といえば、ウィスキーのワールドカップと言えるWWA(ワールド・ウィスキー・アワード)で2008年に世界No.1を獲得したウィスキーが余市「1987」だった。世界に「ジャパニーズ・ウィスキーここにあり」と初めて存在感を示した伝説的なウィスキーだ。日本に本格的なウィスキーをもたらした竹鶴政孝が生きていたなら、どんな想いであっただろうか。彼はサントリー(当時:寿屋)で山崎蒸留所を立ち上げた後、どうしても北の大地に蒸留所を作り上げる理想を捨てられず、自分で会社を興し、余市蒸留所を立ち上げたのだ。
今回の余市は、WWAでNo.1を獲ったものと全く同じではないが、同じ仕込み年(1987)だったので、グラスを傾けながら上記のように思いを馳せてみた。先人達に感謝をしながら・・。


【評価】
華奢なグラスが鼻の奥まで、甘くメロウな香りを届ける。優しくそよ風が囁く。真綿で包まれた木。ドライフルーツ。静かに波音が聴こえ、樹液が染み出す。
目を閉じて琥珀色の液体を少量、口に流し込み舌全体で味わうと、清涼感のある甘みを感じる。味が広がり、暖炉にくべた木、白檀の高貴さを感じ、同時に丸太の無骨さのような主張を受け取る。飲み込めば、アルコールが身体を温める。
寒い冬の日にどうか一杯、あたたかさと安らぎを与えるためにください、と頼みたくなるウィスキー。

【Kawasaki Point】
87point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:余市1987 22年 シングル・カスク
地域:余市、北海道、Yoichi, Hokkaido
樽:Oak, Sherry, オーク、シェリー
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル


熟成の歴史を感じる琥珀色

丸太の無骨さのような主張を受け取る

WWAで世界最高峰を達成した翌年にボトリングされている

札幌から北西へ約40km。厳しい寒さの余市蒸留所の場所をマップで確かめてほしい。

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レビュー:VAT69(特級) 意外な主張

VAT69(特級表示)を飲んだ。83点。
特級表示のあるウィスキーは1962~1989年に発売されたウィスキーだ。なにが特級かって、税率が特級だった。今は2,000円のスコッチ・ウィスキーが10,000円以上した時代だ。
ちなみにウィスキーの原料や製法は、微妙にではあるけど日々変わっているので、同じVATというウィスキーでも、昔のものと今のものとでは味わいが違う。


【評価】
グラスを鼻に近づけると、甘くゆるい香り。白いユリの香り。木目の間の樹液。主張しすぎない腐葉土。
口に含めば、拡がる薄いヨード香。あっさりと薄く味わう。煙の音が聞こえる。鉄の煙突。
安価なブレンデッドウィスキーだと思い、何気なく飲むと意外な主張に驚き、すごくうまいウィスキー。

【Kawasaki Point】
83point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:VAT69(特級表示)
地域:Highland, ハイランド
樽:Oak, オーク
ボトル:Blended, ブレンデッド

甘くゆるい香り。白いユリの香り。

何気なく飲むと意外な主張に驚く

昔は素晴らしいものにはなんでも
「デラックス」と付いていたらしい

1882年、ウィリアム・サンダーソンさんが
100のVAT(調合具合を変えたバッチ)をつくり、
皆で飲んだところ69番目のVATが一番うまかったそうな。
それがVAT69の由来。
時代を偲ぶ特級表示

VAT69はイギリスはハイランド、ロイヤル・ロッホナガー蒸留所にて生産されている。

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レビュー:キャメロンブリッジ1954 グレーン 35年 飲んだことある?

Cameron Brig Vintage 1954 Pure Grain Scotch Whisky 35yo (キャメロンブリッジ ヴィンテージ1954 ピュア・グレーン・スコッチ・ウィスキー 35年熟成)を飲んだ。65点。
グレーン・ウィスキーとはなにか?それがウィスキーの歴史にどんな革命をもたらしたか?についてはいずれ別記事にしようと思う。ここではさらっと。簡単にいうと、グレーン・ウィスキーとは蒸留するときに「連続蒸留器」という蒸留器を使ったウィスキーだ。この「連続」というのがポイント。その名のとおり、連続でひたすらウィスキーを生産できる。効率の変わりにこの蒸留器が失ったものは個性。結果として、極めて穏やかなウィスキーが出来る。原料は大麦麦芽(モルト)が少量と、大麦以外の穀物(トウモロコシ、小麦、ライ麦など)だ。
グレーン・ウィスキーは通常、モルトウィスキーと混ぜて味の調整に使われる(そしてブレンデッド・ウィスキーとして世に出る。キャメロンブリッジの場合だと、ジョニーウォーカーに使われている)。単体でリリースされることは非常に珍しい。
ましてや、1954年に仕込まれた35年熟成のグレーン・ウィスキーなどほとんどないはずだ。けれども長熟のブレンデッド・ウィスキーにはこういった長熟のグレーン・ウィスキーが使用されている。一度は飲んでみたい。さてはて、どんな味がするのか?

(あ、細かいことをいえば、今回のキャメロンブリッジはPure Grain、つまり大麦麦芽は一切使っていない。ついでに世界で始めてグレーン・ウィスキーを製造した蒸留所ということも附記)



【評価】
香りは澄んでいて、甘み、甘み、そして甘み。かすかに醤油の酸味も混じる。穏やかな畑の風景。湧き出る水。
口に含めば、野菜を洗った夏の水。バーベキューのトウモロコシ。夏草。
濃い色の割りに、意外とさらさら入ってくる。
驚くべきことに、このグレーンは、厚みにも重みにも軽さにも薄さにもなりえる。
(普通のグレーンならば軽さと薄さにしかなりえないが、長熟のせいか、厚みや重みの表現もあるのだ・・)

単体では美味くはないが、大変勉強になった。もし出会えば飲むことをオススメする。

【Kawasaki Point】
65point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:Cameron Brig Vintage 1954 Pure Grain Scotch Whisky 35yo (キャメロンブリッジ ヴィンテージ1954 ピュア・グレーン・スコッチ・ウィスキー 35年熟成)
地域:Lowland, ローランド
樽:Oak, オーク
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル


香りは澄んでいて、甘み、甘み、そして甘み。

Signatoryシリーズの"S"

元から付いていたコルクはもうボロボロ

このヴィンテージにはなかなかお目にかかれない。
大変勉強になった一本。