ウィスキーの「シングルカスク」とは何か?

たまにしか聞くことはないが、「シングルカスク」とはなんだろうか?どういう意味だろう。

シングルカスクの意味

答えは、「ひとつの樽から取り出して、そのまま瓶詰めしたウィスキー」だ。
ひとつの樽=シングル・カスク。

ウィスキーの蒸留所にはたくさんの樽がある。樽ごとに風味が違うので、マスターブレンダーは、通常、複数の樽の原酒を理想的な香味になるようブレンドするのだ。原酒をまぜ合わせて、シングルモルトをつくったり、ブレンデッドウィスキーをつくったりする。
参考記事
シングルモルトと、ブレンデッドウィスキーの違いとは?
ウィスキーのシングル・モルトとは何か?

しかし、シングル・カスクはまったくブレンドしないウィスキーなのだ。

ウィスキーは樽の中で眠る。どんな夢を見るか。

関連する「カスクストレングス」という言葉の意味

「カスクストレングス」という言葉もある。
これは、「樽出しのまんま」という意味である。通常のウィスキーは、水を加えてアルコール度数を調整しているが(40~45度程度)、カスクストレングスのものは樽から出したまんまなので、50度ないし60度クラスのものも珍しくない。
「ちょっとそのまんま味わってみてよ」というものだ。
シングルカスクの場合、このカスクストレングスで世に出てくる場合も多い。


科学的な説明だけでなく・・・

と、ここまではよくある説明だが、やや科学的で味気ないかもしれない。
より情緒的に説明すならば、シングルカスクとは「樽の個性を味わうもの」だといえる。手にしたグラスの中にある液体を見つめるとき、実は、あなたはその「樽の個性」と向き合っているのだ。なぜそういえるのだろうか?また、この「樽の個性」は、どんな風にしてわれわれに届けられているのだろうか?

何万樽もの中から・・・

毎年、ウィスキーの蒸留所ではたくさんのウィスキー原酒が蒸留され、たくさんの樽に詰められる。
新樽もあれば、数十年使用した樽もあるだろう。大きな樽、小さな樽、樽の木材もさまざま、かつてバーボンを詰めていた樽もあれば、シェリー酒を詰めていた樽もあるだろう。それぞれの樽にヒストリーがある。

蒸留したての、まったく透明の、ウィスキーがそれぞれの樽に注がれる。

眠るあいだに、個性が育つ

そして、樽は静かに眠る。その土地で、樽は呼吸をする。1年、2年、10年、20年と時間をかけて、横並びの樽の中のウィスキーは、全く違うものへと変化する。もともと同じウィスキーだったものが、“個性”を発揮しはじめるのだ。

ブレンダーは樽に問いかける

ブレンダーは見極める。
「この樽の、この原酒は、そのままで味わえるだろうか?」
「このひと樽で充分なバランスを持っているだろうか?」
「“今”がその時だろうか?」
そうして、何万樽のなかのたったひと樽が選ばれる。

つまりシングルカスクとは

つまりシングルカスクとは、「選ばれた樽の個性」を味わうものだ。はるか彼方の地でねむる、数万という樽の中から、たったひとつ選ばれ、ボトリングされ、われわれの手の中のグラスへと注がれる。
だから、シングルカスクのウィスキーを飲むときには、その樽の過ごした「時間」や、育った「個性」に思いを馳せるのも愉しみとなる。


こんなことを頭の片隅に少し置いておいてほしい。
今宵もよいウィスキーライフを。



レビュー:バランタイン17年 シグネチャー・ディスティラリー スキャパ

Ballantine's 17yo Signature Distillery SCAPA(バランタイン17年熟成 シグネチャー・ディスティラリー スキャパ)を飲んだ。86点。
バランタインというブレンデッド・ウィスキーを構成する原酒は、数十種類あるといわれる。その中で中心的な役割を果たしているのが「バランタインの魔法の7柱」と呼ばれるシングル・モルトたちだ。その7柱のうちの特に「スキャパ(SCAPA)」を強調してブレンドしたのが、今回のこの限定ボトル。(通称:スキャパ・エディション)
さてはて、その香味やいかに。



【評価】
グラスを傾け、立ち上る香りは、海辺に咲いた可憐な花。潮風。ヨット、オイル、ビーチバレー、桟橋の木。
唇からそっと流し込めば、ガラス窓の付いた船底、太陽の照った海原をゆっくりと進む。
潮の香りを味わいながら、可憐な花に思いを馳せる、そんなウィスキー。

※通常の「バランタイン17年」よりもSCAPAの特徴である爽やかな塩の香りが強調されている。

【Kawasaki Point】
86point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:Ballantine's 17yo Signature Distillery SCAPA(バランタイン17年熟成 シグネチャー・ディスティラリー スキャパ)
地域:Islands, Highland, アイランズ、ハイランド など
樽:Oak, オーク
ボトル:Blended, ブレンデッド

シグネチャー・ディスティラリー・シリーズ

17年熟成

ジョージ・バランタイン&サン社

ラベルには、スキャパ湾から見たスキャパ蒸留所が描かれている。

潮の香りを味わいながら、可憐な花に思いを馳せる

“スキャパはバランタインを構成する象徴的なモルトのひとつです。
バランタインの歴史におけるスキャパの重要性に敬意を表し、
マスターブレンダーは特別にこの蒸留所ブレンドをつくりだしました”




レビュー:バランタイン17年 華やかさと安定感

Ballantine's 17yo(バランタイン17年熟成)を飲んだ。86点。
バランタインは、非常に有名なブレンデッド・ウィスキーだ。
(ブレンデッドが何かということについては、こちらの記事を参照してほしい。
 参考:シングルモルトと、ブレンデッドウィスキーの違いとは?

名の通ったブレンデッド・ウィスキー 「バランタイン」


【評価】
グラスに鼻を近づければ、ミツバチの飛ぶ花畑、さらさらと流れる小川、きらきらと太陽が反射している。やわからい土の香り。画家がなんども構図を検討した絵のような、深くどっしりとした熟成感。
口に含めば、先ほどの小川に横たわり水の流れを感じながら、焦げた土、イチゴとスパイスを感じる。
華やかさと安定感の同居したウィスキー。

【Kawasaki Point】
86point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:Ballantine's 17yo(バランタイン17年熟成)
地域:Highland, ハイランド など
樽:Oak, オーク
ボトル:Blended, ブレンデッド

ブレンデッド・スコッチ・ウィスキー

エンブレムの背景のエンブレム

ジョージ・バランタイン&サン社が生産

GEORGE BALLANTINE & SUN

熟成感のある色

華やかさと安定感の同居したウィスキー




シングルモルトと、ブレンデッドウィスキーの違いとは?

よく考えればどうでも良いかもしれないが、ふと気になってしまう、「シングル・モルト・ウィスキー」と「ブレンデッド・ウィスキー」の違いを解説する。

ちょっと気になる“その違い”

シングル・モルトとブレンデッド、ひとことで言えば何が違うか?

ひとことで正確にいえば、「かかわった蒸留所の数がちがう」となる。

シングル・モルト・ウィスキーの「シングル」は「ひとつの蒸留所」を意味する。手に取ったそのひと瓶の中身が、ひとつの蒸留所から生まれたものならば、それはシングル・モルト・ウィスキーだ。

対してブレンデッド・ウィスキーは、ふたつ以上の蒸留所が関わっている。いろんな蒸留所のウィスキーを混ぜ合わせ、ブレンドしたものだ。手に取ったひと瓶の、その中身をつくり上げるのに、数十の蒸留所が関わっている場合もある。つまり、複数の蒸留所のウィスキーをブレンドすれば、ブレンデッド・ウィスキーとよばれる。


流通量はどっちが多い?

圧倒的にブレンデッド・ウィスキーの流通が多い。世界のウィスキーの流通量の8~9割はブレンデッド・ウィスキーと言われている。100~200年ぐらいのウィスキーの歴史の中では、ブレンデッドが王道なのだが、最近になって「蒸留所ごとの個性を愉しむ」シングルモルトも伸びてきている。


ちょっと待って。さっきからシングル・モルトの「モルト」ってなに?

モルトとは、大麦麦芽(おおむぎばくが)のこと。これがモルト・ウィスキーの原料。モルトを原料としたウィスキーだから、モルト・ウィスキー。地域でいえば、日本やイギリス(スコッチ)、そしてアイルランドでは、ウィスキーといえば、モルト・ウィスキーのことを差している。
(ちなみにカナダでウィスキーといえば、ライ麦が主原料のライ・ウィスキー。アメリカでウィスキーといえば、もちろんトウモロコシ主原料のバーボンウィスキー)
シングル・モルトとは何か?についてはこちらの記事を参照してほしい。


ブレンデッドの立役者、「グレーン」ってなに?

「安くて美味いウィスキーをつくる手段はないものか」と考えていくと、グレーン・ウィスキーに突き当たる。グレーン・ウィスキーは、安くつくれる。モルト(大麦麦芽)以外の穀物(主にトウモロコシ)でつくるウィスキーのこと。ただし、モルトのような強い香りの個性はない。
ブレンデッド・ウィスキーの場合、ほとんどがモルト・ウィスキーと、グレーン・ウィスキーを混ぜている。いくつかのモルト・ウィスキーで香味の方向性を決めて、グレーン・ウィスキーでバランスを調整するのだ。映画にたとえれば、ギャラの高い主役がモルトで、主役を支える立役者がグレーン・ウィスキーだ。

このウィスキーという名前の液体に、
そんなに種類があるなんて・・・

ちなみに、「ピュアモルト」ってなに?

日本に流通している言葉で、「ピュアモルト」がある。これは、大きな分類の中ではブレンデッドウィスキーなのだが、グレーン・ウィスキーをつかわず、モルト・ウィスキーだけでブレンドしました、というアピールだ。主役級が勢ぞろいの映画みたいなものだ。日本にはどうも純粋信仰みたいなものがあるので、「シングル」とか「ピュア」とか言うと、ありがたい、と感じる人が多いため、この言葉は、ウィスキーのまじめな分類というより、ほとんどマーケティング用語である。


もひとつちなみに、「ヴァテッドモルト」ってなに?

今はあまり使わない表現。ピュアモルトと同じ意味。モルト・ウィスキーと別のモルト・ウィスキーをまぜあわせて作ったウィスキーのこと。「もうそれ、ブレンデッド・ウィスキーでいいじゃん」ってことで、数年前からスコッチウィスキー協会が「もうヴァテッドって言葉はやめよう、ブレンデッドで統一!」と宣言。
(テクニカルに言えば、シングル・モルトもヴァッティングするし、ピュア・モルトもヴァッティングするので、両方ヴァテッド・モルトと呼べてしまって、超ややこしい。忘れてください)
※WWA(World Whisky Award)では、モルト・ウィスキーだけをブレンドしたウィスキーのことを、「ピュアモルト」とも「ヴァテッドモルト」とも言わず、「ブレンデッド・モルト」と表現。


結局、シングルモルト・ウィスキーとブレンデッド・ウィスキーの違いを知ってどうする?

正直な話、「へぇ~」といえるトリビア以上のなにものでもない。シングルモルト・ウィスキーといえども、ひとつの蒸留所の複数の樽の原酒をブレンドしているし、ブレンデッド・ウィスキーはブレンドする地域・種類の幅を広げただけだ。
いずれにせよ、最終的にウィスキーをつくるマスターブレンダーの卓越した鼻によって、今日も素晴らしいウィスキーがこの世に生み出されているのだ。それは本当に神秘的な世界だと、私は思う。マスター・ブレンダーの生み出す豊かな香りの世界観に、私たちは酔う。


グラスを傾けながら、ウィスキーの成り立ちについて少し思いを馳せるのも、楽しいかもしれない。
今宵もすてきなウィスキー・ライフを。