ウィスキーとブランデー・・・どっちも茶色の液体で、なんだか裕福そうなおじさんが白い毛の長い猫をひざに乗せて大き目のグラスをクルクルさせる・・・というイメージがあるかもしれない。
たしかに共通するところの多いこの酒(ウィスキー、ブランデー)は、飲まない人から見ればだいたい似たようなものだろう。しかし、少し知ってしまえば、その二つが大きく違うものだということに気がつく。
今回はよく「原材料が違う」程度に語られるこの二つの酒の違いについて紹介しようと思う。
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ウィスキーとブランデーはどのように違うか |
ビールを蒸留するとウィスキーになり、ワインを蒸留するとブランデーになる
いきなり結論から入ると、両方とも下敷きとなる酒があり、それぞれを蒸留させると、ウィスキーとブランデーになる。ウィスキーの下敷きはビールだ。そして、ブランデーの下敷きはワインだ。
(もちろんそれぞれの素材は大麦⇒ビール⇒ウィスキー、ブドウ⇒ワイン⇒ブランデーだ)
ウィスキーはかなり幅広く豊富なアロマを持ち、ブランデーはやはりブドウの芳醇な香りがする。
「蒸留」とは?
「蒸留」というのは、酒をぐつぐつ煮て、蒸発する気体を逃がさずに、そのまま冷やしてとりだすことだ。もしあなたが無人島に漂流してのどが渇いたなら、海水をぐつぐつ煮て、上がってくる水蒸気をあつめて飲み水にしたいと思うだろう。蒸留はまさにその作業だ。ぐつぐつ煮て、蒸発した望ましいものだけを抽出する。
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蒸留器(ポットスチル) 蒸気を集める |
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蒸留器は下からぐつぐつ煮る |
ウィスキーは反逆精神、ブランデーはブランディングの酒
ふたつの酒の成り立ちの物語をカンタンに触れておくと、この違いが際立つ。世界史的には、両方ともアラビアで開発された「蒸留器」(その名も“アランビック”)を手に入れた各地の人々が、それぞれの酒を蒸留させただけ、といえばそれだけなのだが、ウィスキーはその誕生に「密造酒」というアウトローなスパイスがあり、一方ブランデーは意図的に「高級路線」をとったコマーシャリズムがあった。
密造酒だったウィスキー
18世紀初頭まで、ウィスキーは熟成させていないただの度数の高い透明な酒だった。時の権力者がスコットランドの麦芽税を15倍にはね上げた。これに酒造りにいそしむ人々は反抗し、ひっそりと山奥に隠れて酒造りを続けた(なんたる反逆精神!)。さらに、徴税官の目を逃れるため、古いシェリーの空き樽に入れて酒をカモフラージュした。しばらく置いて飲んでみると、透明だったものが茶色くなって、豊かなアロマがあることが発見された。「樽で熟成させると美味い!」これが今のウィスキーの誕生の歴史。
卓越した航海技術を誇るオランダ人が生んだブランデー
17~18世紀、ブランデーは庶民の酒だった。その当時、オランダ人は卓越した航海技術を誇っていたが、アルコール度数の高いブランデーの輸送のしやすさ(劣化しにくさ)に目をつけ、これをイギリスに売り込んだ。当時は、「ヴァン・ブリュレ(ワインを焼いたもの)」とちょっと無粋な名前で呼ばれていたものを、「ブランデ・ウェイン(熟したワイン)」と呼んでイギリスで高級ブランド化した。この路線がヒットし、ブランデーは貴族の間で愉しまれるようになり、本国フランスでも受け入れられた。これが現在に到るブランデーの歴史。
ちなみに、ワインにブランデーを混ぜてアルコール度数を上げたものを、ポートワインという。これも同じ時代に輸送のしやすさ(劣化しにくさ)に着目してつくられたものだ。ポート(港)のワイン。海運がメインだった時代の情緒ある名前だ。
さて、ウィスキーとブランデーの違いについて、原料以上の歴史があることを少しでも面白いと感じてもらえただろうか(もうしそうならこの記事は本望だ)。単に二つのボトルを並べても、その違いを大きなものとは感じないかもしれない。だが、上記のような誕生の歴史まで知ってしまえば、もうウィスキーとブランデーを同じようなものと思うことはないだろう。
ウィスキーを飲むとき、このことをちょっとでも思い出してもらえなたら、味わいがまた違ってくるかもしれない。今宵も、よいウィスキーライフを。
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乾杯 |
※ちなみに※ この記事で用いたウィスキーとブランデーという用語は、より広義な使用のされ方もある。モルト(大麦麦芽)以外を原料とするウィスキーもあるし、ブドウ以外を原料とするブランデーもある。区別するときは、○○ウィスキーとか、○○ブランデーなどと言う(ライウィスキー、アップルブランデーなど)。