レビュー:ボウモア2002 12年 W.Agency ゴツい漁師の手

BOWMORE 2002 12yo Liquid Library by Whisky Agency(ボウモア2002 12年熟成 ウィスキーエージェンシーのリキッドライブラリー)を飲んだ。87点。

ボウモア2002 12年熟成 W.Agency

【評価】
グラスを傾けて鼻を近づけると、花とグレープフルーツの皮、灰、ぬっとりとした潮感(決して嫌ではない)。怠惰なようで、洗練された大人。部分的に晴れた空。
目を閉じ口に含めば、濃いグレープフルーツジュース、暖炉の火にあたった記憶、潮の引けた砂。
長い闘いを経験してきたゴツい漁師の手のようなウィスキー。温かみがあるが、それはキレイで無垢だからではなく、経験に裏打ちされている。

【Kawasaki Point】
87point

【基本データ】
銘柄:BOWMORE 2002 12yo (ボウモア2002 12年熟成)
地域:Islay, アイラ島
樽:Burboun Rifill Butt, バーボン
ボトル:Whisky Agency,  ウィスキーエージェンシー

花とグレープフルーツの皮、灰





長い闘いを経験してきたゴツい漁師の手のような

ボウモア蒸留所付近のストリートビュー。白い建物が並んだ風景を堪能してほしい。

大きな地図で見る




レビュー:グレンスコシア 1992 20年 ウェストウッド どこか寂しさの漂う・・・

GLEN SCOTIA 1992 20yo Westwood(グレンスコシア1992 20年熟成 ウェストウッド社)を飲んだ。84点。

グレンスコシア1992 20年熟成

【評価】
グラスから立ち上る香りは、灰に混じった赤紫色の花弁、空を見上げて煙を吐き出すような。秋口に遠くを見る目をして、物思いに耽たくなる。レモン果汁を少し。
口に含めば、ライトな甘み、くどくならないのは、熱い灰と共に消えてゆくから。
秋になって誰もいない寂しい海を眺めているかのような気持ちになるウィスキー。

詩にもなる、絵にもなる、でもどこか寂しさの漂うウィスキーである。

【Kawasaki Point】
84point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:GLEN SCOTIA 1992 20yo (グレンスコシア1992 20年熟成)
地域:Campbeltown, キャンベルタウン
樽:EX-Bourbon Hogshead, バーボンホグスヘッド
ボトル:Westwood, ウェストウッド社

Westwood社のウィスキー

灰に混じった赤紫色の花弁

蒸留所のイメージ図


誰もいない寂しい海を眺めているかのような



ストリートビューでグレンスコシア蒸留所を確認してみて。

大きな地図で見る






レビュー:トミントール1967 45年 MoS 木の板についたハチミツ

TOMINTOUL 1967 45yo MALTS OF SCOTLAND(トミントール 1967 45年熟成 モルツ・オブ・スコットランド)を飲んだ。85点。
60年代蒸留で45年熟成もすごいが、シェリーでもバーボンでもなく、ラム樽であるということが珍しい一本。さてはて、その香味やいかに。

トミントール 1967 45年

【評価】
その香りは、繊維のはっきりした板材、ハッカ、ハチミツ、花の蜜。上品で高貴な陶酔感。
口に含めば、やわらかく入ってくるが、甘くて強い主張。鼻に抜ける花々の蜜。深い木の苦味。木の板についたハチミツを舐めるかのような。
上品で重みを感じさせないのに、どっしりとした深みを感じさせるウィスキー。

【Kawasaki Point】
85point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:TOMINTOUL 1967 45yo (トミントール 1967 45年熟成)
地域:Highland, ハイランド
樽:Rum Barrel, ラムバレル
ボトル:MALTS OF SCOTLAND, モルツ・オブ・スコットランド

モルツ・オブ・スコットランド

繊維のはっきりした板材、ハッカ、ハチミツ、花の蜜

トミントール蒸留所

1967-2012 45年熟成 ラム樽

木の板についたハチミツを舐めるかのような

上品で重みを感じさせないが、どっしりとした深みを感じさせるウィスキー

トミントール蒸留所の場所を地図で確かめてみて。

大きな地図で見る





Kawasaki's Whisky Award 2013 ~2013年もっともオススメのウィスキー~

その年、もっとも輝いたウィスキーに贈られる Kawasaki's Whiskey Award が今年も発表されました(本ブログのオリジナル賞です)。厳選なる審査の結果は下記のとおりです。(尚、2012版のリンクはこちらです)

註)
・この賞はリリース年に関わらずこのブログで記事になった年でエントリーしています。
・通常記事の評価に加え、「現時点での入手しやすさ」も賞の基準です。


最優秀ウィスキー賞 BEST WHISKY

~今年もっとも輝いたウィスキー。陰と陽をバランスし、飲む者の人生に深みを与える~

響 ディープハーモニー (HIBIKI DEEP HARMONY)


大阪府は山崎蒸留所、そして山梨県は白州蒸留所の皆様、おめでとうございます。
“このウィスキーは、「ジャパニーズウィスキーのなんたるか」を体現したひとつの答えでしょう。ディープハーモニーの名に違わず、すべての香味の要素がすばらしい調和を見せてくれます。香味が描く世界観は繊細で奥深く、まさに和そのもの。これは、スコッチでもバーボンでも味わうことの出来ないオリジナルの世界でしょう”
ジャパニーズウィスキーを背負っているという気概と誇りすら感じられる点も評価ポイントです。

記事はこちら・・・
レビュー:響 ディープハーモニー 稀に見る・・・


最優秀新人賞

~今年もっとも驚きをもたらした若いウィスキー~

MACMYRA THE 1st EDITION(マックミラ ザ・ファースト・エディション)


スウェーデンのマックミラ蒸留所の皆様、おめでとうございます。
“今年の最大の驚きは、このスウェディッシュ・ウィスキーでしょう。台湾のカヴァラン(記事はこちら)もこの賞の候補に上がりましたが、もうかなりメジャーです。しかし、このスウェディッシュ・ウィスキーはまだ6年目で、規模もかなり小さいようです。なんでも仲間内で「スウェーデン産のウィスキーをつくろう!」と盛り上がって本当につくってしまったとか・・・ウィスキーの新世界に期待します。肝心の香味は、まだまとまりには欠けますが、めくるめく複数種の甘さのアタックは特徴的で可能性を感じさせてくれます”

ウィスキーの世界では意外なことに作り手は女性のようで、様々な点で新しいといえます。そういった未来の夢があるストーリーも評価のポイントとなりました。

記事はこちら・・・
レビュー:マックミラ 初のスウェーデン・ウィスキー


最優秀技術賞

~今年もっとも高いウィスキー技術に贈られる。次のウィスキーの発展を予感させる~

GLENMORANGIE SIGNET(グレンモーレンジ シグネット)


グレンモーレンジのビル・ラムズデン博士、受賞おめでとうございます。
“この「詳細が秘密」にされたウィスキーは、不思議な気品に満ちています。濃厚でしかも焦げた余韻を漂わせるのに、こってりなりすぎずに華やかな蜜の香りを絶妙なバランスで漂わせる・・・この妙技には舌を巻きます。普通は相容れにくい要素が見事に調和しているからです。飲んだあと、ゆったりとよい気分にさせてくれます”
香味のコンセプトにぴったりなボトルデザインも秀逸で総合評価を上げています。
尚、「竹鶴(ノンエイジ)」や「シンジケート58/6」も選考対象でした。

記事はこちら・・・
レビュー:グレンモーレンジ シグネット 心を落ち着かせる気品

特別功労賞

~今年もっともウィスキー文化の発展に寄与したと評価される活動~

映画 『天使の分け前』(Angels' Share)

『天使の分け前』公式画像。引用

イギリスの映画監督ケン・ローチさん、おめでとうございます。

“この世界初のウィスキー映画が、多くの人にウィスキーをポジティブなものとして印象付けてくれるでしょう。息を呑むほど美しい蒸留所シーンや、自然豊かなスコットランドの蒸留所の風景なども素敵ですし、ウィスキーを全く知らない若者達の目を通して見るウィスキーの世界というのも斬新でした”
ウィスキーファンならずとも、この映画でウィスキーの魅力を感じることでしょう。グラスゴーの街並みや若者達のリアリティ追求も素晴らしい映画でした。

記事はこちら・・・
映画のレビュー:『天使の分け前』 世界初のウィスキー映画
映画のレビュー:ネタバレ編 『天使の分け前』 賛否両論


以上、Kawasaki's Whiskey Award 2013 でした。
2014年の今年も皆様が良いウィスキーに出会えますように。



レビュー:グレンモーレンジ エランタ まるで桂離宮

GLENMORANGIE EALANTA 1993 19yo(グレンモーレンジ エランタ 1993 19年熟成)を飲んだ。97点。
最近、実験的なボトルを多くリリースしているグレンモーレンジ(by ビル・ラムズエン博士)。この「エランタ」は、アメリカンホワイトオークの新樽で作られたようだ。「エランタ」とは、ゲール語で「匠の技」を意味するらしいが、果たしてどのような香味なのか。

グレンモーレンジ エランタ

【評価】
グラスから立ち上る香りをかげば、甘い花の蜜のようなトップノート、その奥に潜むのは日に焼けて艶の出た木のテーブル、墨汁。繊細な香りの美と、細い(しかし決して華奢ではない)しっかりとした構造。まるで桂離宮のような。
口に含めば、甘くてソフトな舌触りとふわっと広がる香り。木の渋みもしっかりと味わわせつつも、全体として毛の長い猫を撫でているようなふうわりとした心地。甘く、上品なバランスを保ちながら長く続く余韻。強い余韻だから長く続くのではなく、曲芸のようにバランスを保ちつづける。
まるで貴重な石を用いて、慎重につくられた工芸品のようなウィスキー。気品が漂っている。

【Kawasaki Point】
97point

【基本データ】
銘柄:GLENMORANGIE EALANTA 1993 19yo(グレンモーレンジ エランタ 1993 19年熟成)
地域:Highland, ハイランド
樽:American White Oak, アメリカンホワイトオーク(新樽)
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル

その香りは、まるで桂離宮のような構造美

匠の技、エランタ

モーレンジのロゴ

アメリカンホワイトオークは、マークトウェインの森から

貴重な石を用いて、慎重につくられた工芸品のような





ウィスキーとブランデーの違いとは?

ウィスキーとブランデー・・・どっちも茶色の液体で、なんだか裕福そうなおじさんが白い毛の長い猫をひざに乗せて大き目のグラスをクルクルさせる・・・というイメージがあるかもしれない。
たしかに共通するところの多いこの酒(ウィスキー、ブランデー)は、飲まない人から見ればだいたい似たようなものだろう。しかし、少し知ってしまえば、その二つが大きく違うものだということに気がつく。

今回はよく「原材料が違う」程度に語られるこの二つの酒の違いについて紹介しようと思う。

ウィスキーとブランデーはどのように違うか


ビールを蒸留するとウィスキーになり、ワインを蒸留するとブランデーになる

いきなり結論から入ると、両方とも下敷きとなる酒があり、それぞれを蒸留させると、ウィスキーとブランデーになる。ウィスキーの下敷きはビールだ。そして、ブランデーの下敷きはワインだ。
(もちろんそれぞれの素材は大麦⇒ビール⇒ウィスキー、ブドウ⇒ワイン⇒ブランデーだ)
ウィスキーはかなり幅広く豊富なアロマを持ち、ブランデーはやはりブドウの芳醇な香りがする。

「蒸留」とは?

「蒸留」というのは、酒をぐつぐつ煮て、蒸発する気体を逃がさずに、そのまま冷やしてとりだすことだ。もしあなたが無人島に漂流してのどが渇いたなら、海水をぐつぐつ煮て、上がってくる水蒸気をあつめて飲み水にしたいと思うだろう。蒸留はまさにその作業だ。ぐつぐつ煮て、蒸発した望ましいものだけを抽出する。

蒸留器(ポットスチル) 蒸気を集める

蒸留器は下からぐつぐつ煮る

ウィスキーは反逆精神、ブランデーはブランディングの酒

ふたつの酒の成り立ちの物語をカンタンに触れておくと、この違いが際立つ。世界史的には、両方ともアラビアで開発された「蒸留器」(その名も“アランビック”)を手に入れた各地の人々が、それぞれの酒を蒸留させただけ、といえばそれだけなのだが、ウィスキーはその誕生に「密造酒」というアウトローなスパイスがあり、一方ブランデーは意図的に「高級路線」をとったコマーシャリズムがあった。


密造酒だったウィスキー

18世紀初頭まで、ウィスキーは熟成させていないただの度数の高い透明な酒だった。時の権力者がスコットランドの麦芽税を15倍にはね上げた。これに酒造りにいそしむ人々は反抗し、ひっそりと山奥に隠れて酒造りを続けた(なんたる反逆精神!)。さらに、徴税官の目を逃れるため、古いシェリーの空き樽に入れて酒をカモフラージュした。しばらく置いて飲んでみると、透明だったものが茶色くなって、豊かなアロマがあることが発見された。「樽で熟成させると美味い!」これが今のウィスキーの誕生の歴史。


卓越した航海技術を誇るオランダ人が生んだブランデー

17~18世紀、ブランデーは庶民の酒だった。その当時、オランダ人は卓越した航海技術を誇っていたが、アルコール度数の高いブランデーの輸送のしやすさ(劣化しにくさ)に目をつけ、これをイギリスに売り込んだ。当時は、「ヴァン・ブリュレ(ワインを焼いたもの)」とちょっと無粋な名前で呼ばれていたものを、「ブランデ・ウェイン(熟したワイン)」と呼んでイギリスで高級ブランド化した。この路線がヒットし、ブランデーは貴族の間で愉しまれるようになり、本国フランスでも受け入れられた。これが現在に到るブランデーの歴史。

ちなみに、ワインにブランデーを混ぜてアルコール度数を上げたものを、ポートワインという。これも同じ時代に輸送のしやすさ(劣化しにくさ)に着目してつくられたものだ。ポート(港)のワイン。海運がメインだった時代の情緒ある名前だ。



さて、ウィスキーとブランデーの違いについて、原料以上の歴史があることを少しでも面白いと感じてもらえただろうか(もうしそうならこの記事は本望だ)。単に二つのボトルを並べても、その違いを大きなものとは感じないかもしれない。だが、上記のような誕生の歴史まで知ってしまえば、もうウィスキーとブランデーを同じようなものと思うことはないだろう。
ウィスキーを飲むとき、このことをちょっとでも思い出してもらえなたら、味わいがまた違ってくるかもしれない。今宵も、よいウィスキーライフを。


乾杯

※ちなみに※ この記事で用いたウィスキーとブランデーという用語は、より広義な使用のされ方もある。モルト(大麦麦芽)以外を原料とするウィスキーもあるし、ブドウ以外を原料とするブランデーもある。区別するときは、○○ウィスキーとか、○○ブランデーなどと言う(ライウィスキー、アップルブランデーなど)。