レビュー:ボウモア1999 13年熟成 その恐竜を一度見たら忘れない

3Rivers, Dinosaur Series, BOWMORE 1999 13yo(ボウモア1999 13年熟成、三河屋の恐竜シリーズ)を飲んだ。88点。
このダイナソーシリーズのボトルは一度見たら忘れない。なんせ恐竜が描かれているのだから。調べたところ、今回の恐竜はSauropelta edwardsorum(サウロペルタ)のようだ。文献を当たってみたが、ボウモアとの関係性は一切見出せない。ボトラーのただの趣味だろう。しかし、ウィスキーの名前やボトルはなんせ覚えにくいので、こういう尖り方は好感が持てる。
三河屋はボトラーズだ。ボトラーズは蒸留所から樽を買ってきて、独自に寝かせたりして瓶詰めして世に出している(関連:「ウィスキーの“オフィシャルボトル”の意味とは?」)。この三河屋さんは、樽の買い付け1人、営業1人の計2名でやってるらしい。


【評価】
グラスから立ち上る香りは、甘く優雅で、大河のように大量にゆったりと流れてくる。ピートの香りが大河に含まれている。麻の繊維質、ややみかんやオレンジを思わせるフルーティさ。たいまつの炎。
グラスから口に流し込めば、鋭くピートが暴れる。酸味と甘みのバランスが最高で、うまみに昇華されている。重くないスパイシーな後味。
鋭さ、エッジ、うまみのバランスの取れたオシャレな一杯。

【Kawasaki Point】
88point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:BOWMORE 1999 13yo(ボウモア1999 13年熟成)
地域:Islay, アイラ
樽:Oak, Sherry, オーク、シェリー
ボトル:3Rivers, Dinosaur Series, 三河屋の恐竜シリーズ

鋭さ、エッジ、うまみのバランスの取れた
オシャレな一杯

サウロペルタ。
ウィスキーの名前やボトルはなんせ覚えにくいので、
こういう尖り方は好感が持てる

日本から遠く離れたイギリスはアイラ島のボウモア蒸留所。(+や-のボタンで拡大縮小できる)
ここで作られた樽を日本のボトラーが買って、日本で流通し、われわれの口へ運ばれている。

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レビュー:アードベッグ 9年 ~もうすぐ着く~

ARdbEG Almost There 9yo (アードベッグ9年熟成 オールモスト・ゼア)を飲んだ。83点。
「オールモスト・ゼア」つまり、「もうすぐ着く」。ボトルに書かれたなんとも詩的なタイトル。
どこに着くのか?アードベッグのオフィシャルボトルの中で一番若い「10年」に「もうすぐ着く」のだ。
アードベッグは1980年代に操業停止し、1997年に復活した蒸留所。復活を祝い、「アードベッグ10年への道」と題して、3つの詩的なボトルを発表した。

  • Very Young(とても若い)6年
  • Still Young(まだ若い)8年
  • Almost There(もうすぐ着く)9年

今回のボトルはアードベッグが復活してから10年を迎えようというまさにその直前の9年もの。
つくり手としては「約束の10年」にたどり着く、そこにあともう少しだ、という思いはいかほどだったであろうか。楽ではない道のりを1年1年積み重ねてきた。まだ10年ではない、まだ喜んではいけない、しかし気がつけば「もうすぐ着く」じゃないか。
ちなみに、2013年の今となっては、このシリーズはかなり希少。


【評価】
煙たさの奥の奥に柑橘のハーモニー。ピリッとした刺激の奥ゆかしい世界。古い木の廊下。バターの深み。
口に含めば、軟水のまろやかさのあとにすぐ刺激。オイルサーディンのオイル、ドライフラワー。
樽のうまみは充分に横たわっているウィスキー。主張の強さ、それから熟成のうまみ、この両方の要素を同時に味わう。調和しきっていない面白さがある。まさにオールモスト・ゼア。

【Kawasaki Point】
83point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:ARdbEG Almost There 9yo (アードベッグ9年熟成 オールモスト・ゼア)
地域:Islay アイラ
樽:Oak, Bourbon, オーク、バーボン
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル


歴史ある蒸留所だが操業停止しており、
1997年に復活した

ピリッとした刺激の奥ゆかしい世界

調和しきっていない面白さがある

オールモスト・ゼア、「もうすぐ着くから」と。


イギリスはアイラ島、南東に位置するアードベッグ蒸留所を地図で確かめてみて。

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レビュー:ロングロウ1996 14年 カスクストレングス

Longrow1996 14yo CASK STRENGTH(ロングロウ1996 14年熟成 カスクストレングス)を飲んだ。88点。
シェリー樽熟成だが、オロロソではなく、アモンティリャードのシェリー樽というのが珍しい点。


【評価】
グラスに鼻をやれば、強いアルコールに乗って薫る、オイル漬けの野草。
蚊取り線香のある縁側、白い壁の港町の描かれた油絵。煙突の煙。魚醤。
口に含めば、深い醤油のコクと甘みが、くゆらせたタバコの煙が消えていくスピードで口の中に沈んでいく。
重みのある樽の木。
ピートを深く味わいたくなり、何度も口に運ぶウィスキー。

【Kawasaki Point】
88point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:Longrow1996 14yo CASK STRENGTH(ロングロウ1996 14年熟成 カスクストレングス)
地域:Campbeltown キャンベルタウン
樽:Oak, Sherry, オーク、シェリー
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル


香りは、白い壁の港町の描かれた油絵。煙突の煙。

重みのある樽の木


ピートを深く味わいたくなり、何度も口に運ぶ。

スコットランド西岸のキンタイア半島先端のキャンベルダウンは人口5,000の小さな町。

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レビュー:ブラックニッカ ハイボール(缶)


ブラックニッカ ハイボール(缶)を飲んだ。缶の商品には点を付けないのでポイントなし。
いわゆる「ヒゲのハイボール」、角ハイボールのライバルだが、流通量は角の方が上。


【評価】
鼻を近づければ、レモンの香りの奥に麦。そのコクはギリギリの線でバランスを保ち、えぐみになっていない。しかし缶の香り。
口に含めば、炭酸と程よい甘み、缶の苦味を経由して、後味に麦が口の中全体に拡がり立体感を思わせる。
コンセプトは分かるが、缶でなければいいのに、と考えてしまうハイボール。

【Kawasaki Point】
-point(ポイントなし)
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:ブラックニッカ ハイボール(缶)
地域:日本 (余市と宮城)
樽:バーボンなど
ボトル:オフィシャルボトル


ヒゲのハイボール

後味に麦が口の中全体に拡がり立体感を思わせる



なぜウィスキーは最初から美味いと思えないか? 後編

なぜウィスキーは最初から美味いと思えないか? 前編からの続き。
前編では、人には「経験値を重ねウィスキーを好きになる臨界点」があり、それは「アクワイアード・テイスト(後天的な味覚)」と呼ばれていることを紹介した。
後編ではさらに掘り下げて、人がいかに「アクワイアード・テイスト」を獲得するか、そしてウィスキーを好きになるためにはどのようにすれば良いかを紹介する。「ウィスキーを好きになるメカニズム」について書かれた文章はほとんど見当たらないから、この記事はボリュームを持たせた。

ウィスキーはいかに人を魅了するか
いかにアクワイアード・テイスト(=後天的な味覚)は育つのか。
まだ味覚が育っていない子供の頃を考えてみるとわかりやすい。

子供にとっての味覚とは

実は人間には先天的な味覚も存在する。子供の頃、文句なしに「うまい!」と感じるのは、「甘み」と「塩み」だ。「甘み」は「エネルギー源」を意味している。糖のエネルギーがなければ人間は生きていけない。また、「塩み」も同様に生命維持に不可欠だ。
子供の味覚にとって「苦味」が意味しているのは「毒」だ。判断力のないうちは苦味は拒否することが生きるために必要なことだ。また、「酸味」が意味しているのは「腐敗」で、これも拒否したほうが得策なのだ。
だからお父さんのビールを一口飲まされた子供は「大人はなぜこの茶色い液体を嬉しがるのか分からない」と心の底から思う。だってそれは子供の味覚にとっての「毒」だから。


食するものによって味覚が発達する

甘いものだけでは栄養が偏る。子供の成長とは、甘み以外の経験を重ねることだ。
そして下記の3つの要素で「アクワイアード・テイスト」は育つ。
  • 頻度
  • 関連情報の豊富さ

これはまさにウィスキーを旨いと思うようになるプロセスと同じなので、ひとつずつ解説していこう。

経験の頻度を増す

その味を経験する頻度が高ければ高いほど、つまり回数も多ければ多いほど、その味に対する感受性が深くなる。これは私がウィスキーを最初50杯飲むまでは美味いと感じず、その後に「美味いかも!」と感じ始めたことと同じだ。コーヒーに砂糖やミルクを入れないと美味いと感じなかったのに、いつしか砂糖の量が減り、ミルクなしになり、ブラックでも美味いと感じるようになるのは、コーヒーの経験頻度が多くなり、その味の繊細さが知覚出来るようになったからだ。

経験の幅が拡がる

ある種の味の経験の幅が大きければ大きいほど、アクワイアード・テイストは開発されていく。ビールの飲み始めに、アサヒもキリンもサッポロもサントリーもないが、同じビールの中で幅をもって経験していくと、これらの違いに気がつけるようになる。最初は普通のビールと黒ビールの違いに気がつくようになる。その後に、ホップを利かせたビールと、ドライなビールの違いに気がつくようになるだろう。むろん、A~Bまでの狭い経験よりも、より幅広くA~Zまで経験したほうが、深く味わいを獲得できる。


関連情報の豊富さ

実はここが最大のミソで、「関連情報」により味覚は変化する。
中の液体の色が分からないようにした黒いグラスで、味を確かめることを「ブラインド・テイスティング」と言うが、これでは本当の「味」は分からない。色も味に影響するからだ。(※ブラインド・テイスティングは特殊な遊び、またはブランド名に左右されない特殊な審査に使用する)
嗅覚と味覚以外は、味に関係ないのでは?と思うだろう。実際には、視覚情報も味に関係する。青く着色した肉は、不味く感じてしまう。実際にレモン果汁はほとんど入っていないのに、黄色く着色された液体は、その味わいに「レモン感」が増されて感じられる。
また、視覚だけでなく、口にするウィスキーの味や香りについての情報も味わいに影響する。ウィスキーに薬の味がすることや、フルーツの香り、蜂蜜の香り、バターの香りなどがする、という情報があれば、味の感じ方が違ってくる。


味わいと記憶

ところで、なぜ関連情報でウィスキーの味わいが違うか?
それは、味わいとは、味に関する記憶だからだ。それこそが「アクワイアード・テイスト」の正体だ。
例えば、子供の頃分からなかった「酸味」がうまく感じられるのは、腐敗ではなく、「醗酵」という自然作用の恩恵を知り、記憶するからだ。「この酸っぱさは、よい酸っぱさだ!」と。「煙たさ」がうまく感じられるのは、火を使い肉や野菜が美味くなることを知るから。バーベキューの美味さは、あの煙たさと共に記憶されている。だから、ウィスキーの煙たさに出会ったとき、その記憶を引っ張り出して「美味さ」として知覚できるようになる。「ムムッ、この煙たさはおいしさの証だ!私にはこの経験があるゾ!」と。


ウィスキーの“香り探し”

数百種の香りの複合体であるウィスキーは、まさにアクワイアード・テイストのかたまりだ。
しかし、はじめてウィスキーに出会ったとき、その香りがあまりに多すぎて、面食らってしまう。ひとつずつの味わいの記憶をうまく引っ張ってこれない。「そんなにいっぺんに言われてもよく分からないよ」状態になる。だから最初、ウィスキーは美味いと思えない。香りの情報量が多すぎるのだ。
では、どうすればよりウィスキーの美味さに気づけるか?
それには、「ウィスキーの香り探し」をしてほしい。ウィスキーはただ漫然と飲むのではなく、その香りの要素をさがしながら飲むことが重要だ。そのための補助として、ウィスキーのテイスティング・コメントがある。このテイスティング・コメントを参考にしながら「ウィスキーの香り探し」をする。
「バナナの香りか・・・うん、確かにそんな香りがするな。。潮の香りもするのか?どれどれ。ほー、そういわれりゃそうだ」などと、ひとつずつ香りを探して、確かめてほしい。
そうするとあなたの脳が「おや、確かにこの香りは前にも味わったことがあるぞ。これはいいという記憶があるゾ。とすると、このウィスキーは、いいものがたくさん詰まった液体だ!」と認識できるようになる。果ては「この香りのハーモニーは、アートだ!」とすら感じるようになる。

これがウィスキーというアクワイアード・テイストの獲得の仕方の最大のコツだ。
(このようにウィスキーとは、あなたの経験を映し出す酒だ。)


最後のまとめ

Q. なぜウィスキーは最初から美味いと思えないのか?
A. 後天的に獲得される「大人の味」(アクワイアード・テイスト)だから。

Q. どうしたらウィスキーが美味いと思えるようになるか?
A. ひとことで言えば「経験値を上げる」こと。
  次の3ステップを踏むと良い。

  STEP1. ちょくちょく飲んでみる(量ではない、頻度だ)
  STEP2. 多くの種類を試してみる(タイプの違うウィスキーを)
  STEP3. テイスティング・コメントを参考に「香りさがし」をする(これが最大のコツ)



この記事をきっかけに多くの人がウィスキーを愉しむことを願っています。
今宵も、良いウィスキー・ライフを。



なぜウィスキーは最初から美味いと思えないか? 前編

ウィスキーの飲み手としての大人(おとな)

二十歳(はたち)の誕生日にウィスキーを飲んだとして、それを美味いと感じることはないだろう。
法律上は大人でも、ウィスキーの飲み手としては、まだ大人とはいえない。

なぜウィスキーは最初から、うまい!と思えないのか?
言い換えれば、最初の内、ウィスキーがはまずいと感じられるのはなぜか?
ある時点まで「まずかった」ウィスキーが、ある時点から「うまく」感じるようになる。その時点はいつくるのか?

琥珀色の魅惑の液体、ウィスキー

ウィスキーの臨界点

私の場合は、ウィスキーなんて最初の50杯ぐらいは美味いと感じなかった。なんとなく、憧れで飲んでいた酒だ。ジャーキーをつまみながら、ジャックダニエルをロックで、そう言うとカッコよい。木のカウンターの焼肉屋さんで、そうですね、白州をロックで、そういうとなんだか大人な感じがした。けれども味はわからなかった。強めのチビチビやる酒だ、ぐらいに思っていた。
ある時点で「あれ、これって美味いかも」と思い始めて今に到る。今にして思えば、どのように味わえばよいか、ウィスキーってそもそもどんな酒か、そんな情報がもっとあれば50杯も飲まずに済んだのではと思うので、そんな人のために、このブログを始めたわけだ。

さて、誰にでも私が経験した最初の50杯のように、「経験値を重ねウィスキーを好きになる臨界点」がある。その臨界点より前までは美味いと感じないのだ。
これを、
アクワイアード・テイスト Acquired Taste = 後天的な味覚
と呼ぶ。
ネット上の多くの記事では、ここまでの説明で終わっているだろう。でも、ここからがポイントだ。
割と一般的な「アクワイアード・テイスト」には、何があるだろう?

  • わさび
  • サザエのにがいところ
  • コーヒー
  • ビール
  • シガー
  • 納豆
  • チーズ
  • 坦々麺
  • 本格カレー
  • キムチ
  • さば寿司
  • 燻製全般
  • ドリアン

こう並べると「あ~なるほどぉ」な感覚があるのではないだろうか。
味覚で説明すると、「酸味」「辛み」「苦味」「煙たさ」が代表的なアクワイアード・テイストだ。
もちろんあなたにも経験があるだろう。


では、人はどのようにしてこのアクワイアード・テイストを獲得するのだろうか?
そこにウィスキーを好きになるメカニズムのヒントがあるのではないだろうか?
それは後編に続く