レビュー:ザ・ニッカ・ウィスキー 1998 34年 ~幻のウィスキー~

The NIKKA WHISKY 1998 34yo(ザ・ニッカ・ウィスキー 1998 34年熟成)を飲んだ。98点。
これは、間違いなく幻のウィスキーである。ネット上でもそのテイスティング・レビューは見当たらないので、このブログがほとんど初めてのレビューだろう。代わりに見かけるのは「空きボトルは見たことがある」とか、「ウィスキー評論家の土屋守氏が、“もう一度飲みたいと切に願うウィスキーだ”と雑誌に書いてた」など、それも5~6年前の記事がほとんどだ。

このウィスキーは、ニッカが1998年と1999年にそれぞれ1,000本限定でリリースしたボトルだ。当時大変な人気で、しかも2013年現在ではもう14、5年前の話だから、現存するボトルはほぼ「幻」と呼んでよいだろう。余市蒸留所のモルト・ウィスキーと、宮城峡のグレーン・ウィスキーを1:1でブレンドしたものだ。
驚くべきは、34年以上熟成されたグレーン・ウィスキーを使っていることだろう。ややテクニカルな話ではあるが、ニッカの創業者の竹鶴政孝(たけつるまさたか=ジャパニーズ・ウィスキーの父)は、穀物からつくるグレーンウィスキーをつくるのに、“より効率の悪い”「カフェ式」と呼ばれる蒸留器を採用した。なぜ効率の悪い方を選択したのかと言えば、その方がより穀物の風味が強く残るからだ。その決定のおかげでニッカは、上質のグレーン・ウィスキーを手に入れた。竹鶴の職人らしいこだわりをうかがわせる話だ。彼は自分の作った蒸留所のグレーン・ウィスキーが34年熟成して世に出る日を見ずに亡くなった。当然、ウィスキーづくりとはそういう「自分の時間」を超えて取り組むものである。しかし、すごい情熱。

今回は、2回連続で、このザ・ニッカ・ウィスキーの98年と、99年の2本のテイスティング・レビューを掲載する。月並みだが「どっちのほうが旨いのか?」という質問にも後ほど答えよう。


【評価】
グラスに鼻を近づければ、理性を飛び越えて“心地よい”と感じる香り。香水のようなシェリー樽の香り。長い時間をかけて日に焼けた窓の木枠。切りたての上質なハムの香りと、そのナイフに反射する光。深く記憶を呼び覚ますかのよう。「この香りなら、酔っ払ってもいいかも」と思わせる。
口に含めば、やわらかく入ってくると同時に、舌の外側で重みを感じ、鼻に抜けていくどこまでも上品に熟成した木と花の香り。
重みと気品のあるウィスキーである。

【Kawasaki Point】
98point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:The NIKKA WHISKY 1998 34yo(ザ・ニッカ・ウィスキー 1998 34年熟成)
地域:Japan
樽:Oak, Sherry, オーク、シェリー
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル

理性を飛び越えて“心地よい”と感じる香り

鼻に抜けていくどこまでも上品に熟成した木と花の香り

1000本限定なのはもったいぶったのではなく、
それが当時の限界だったのではないだろうか

1998年のボトルの裏書はいたってシンプルだ

男の隠れ家、2006年の3月号「幻の酒が飲める店」特集

ウィスキー編は土屋守が案内人だったのだ

土屋守氏が挙げた4つのウィスキーの中でも、
『これぞ僕が「もう一度飲みたい」と切に願うウィスキー』
という強い表現をしている。
土屋さん、2013年の今でも、実はまだ飲めますよ。

重みと気品のあるウィスキーである。

続編、『レビュー:ザ・ニッカ・ウィスキー 1999 34年 ~幻のウィスキーその2~』も掲載。


レビュー:グレンドロナック18年 スパイシーな装飾

GlenDronach Allardice 18yo (グレンドロナック 18年熟成 アラダイス )を飲んだ。83点。
アラダイスとは、グレンドロナック蒸留所の創始者のジェームス・アラダイスに由来。

【評価】
グラスに鼻を近づければ、シェリー樽の香り。線香の深さ。淵が焦げた木の板。消毒液と本。醤油の一升瓶。
口に含むと、飲み口は華やか。オイリーな木の香りだが、スパイシーな装飾が施されている。あれだけ主張したシェリー樽の香りはくどくなく、消える。スパイシーさだけを余韻として残し、コンパクトな重たさを最後に残す。
華やかで、うっとりしすぎないシェリー樽のウィスキー。

【Kawasaki Point】
83point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:GlenDronach Allardice 18yo (グレンドロナック 18年熟成 アラダイス )
地域:Highland, ハイランド
樽:Oak, Sherry, オーク、シェリー
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル

シェリー樽の香り。線香の深さ。
口に含むと、飲み口は華やか。

華やかで、うっとりしすぎないシェリー樽のウィスキー。

イギリスは東ハイランドにある、グレンドロナック蒸留所の位置を地図で確かめてみて。

大きな地図で見る



レビュー:イワイ トラディション 知られざる名ブレンデッド

イワイトラディション(IWAI TRADITION)を飲んだ。86点。
このイワイトラディションは、訳すと「岩井伝説」。ボトルが1,000~2,000円のブレンデッド・ウィスキーのどこが「伝説」なのか?というか、岩井って誰ですか?・・と思われがちだが、これが本当に、伝説的なウィスキーであるから、ウィスキーは奥深い。
短く言えば、岩井さんは、日本のウィスキーの祖父。ジャパニーズ・ウィスキーの父は、単身留学してウィスキー作りを学んで帰った竹鶴 政孝(たけつる まさたか)だ。竹鶴は、サントリーで山崎蒸留所を作り、その後ニッカウィスキーの創設者となった。その竹鶴に「行ってきなさい」と言った上司が、岩井 喜一郎(いわい きいちろう)だ。岩井さんが行かしてくれなかったら、今のジャパニーズ・ウィスキーはない、ということで、岩井さんがジャパニーズ・ウィスキーのおじいちゃん。
竹鶴は帰国後、岩井に留学の成果をまとめたノートを提出する。これが『竹鶴ノート』。

この『竹鶴ノート』を参考に蒸留器をつくった岩井喜一郎。その蒸留器で今もウィスキー作りを細々と(失礼!)行っているのが、マルス蒸留所だ。この蒸留所が、「岩井」の名を冠したブレンデッド・ウィスキーを出す意気込みやいかに。


【評価】
グラスから立ち上る、古めかしい木の香り。木造の校舎。日に焼けた木の板。煙。木枠の窓ガラス越しの青空。
グラスを傾け口に含めば、岩清水の香り。焼いた鮎のうまみ。スモーキー。
豊かなフレーバー。スモーキーさを味あわせる名ブレンデッド。知られざる、と言わざるを得ないのが惜しいところ。

【Kawasaki Point】
86point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:イワイトラディション(IWAI TRADITION)
地域:信州、Shinshu
樽:Oak, オーク
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル

IWAI TRADITION はまさに、岩井伝説。
古めかしい木の香り。木造の校舎。
岩清水の香り。焼いた鮎のうまみ。スモーキー。
信州はマルス蒸留所
知られざる名ブレンデッドウィスキー

信州はマルス蒸留所の位置を地図で確認してみて。

大きな地図で見る


レビュー:ラフロイグ2000 11年 リンブルグ・ウィスキーフェア ~煙たさと甘さのコラボレーション~

Laphroaig 2000 11yo  Limburg Whisky Fair(ラフロイグ2000 11年熟成 リンブルグ・ウィスキー・フェアー)を飲んだ。88点。
先日の、トマーティン1977 30年熟成に続いて、リンブルグ・ウィスキー・フェアのボトル。世界で276本限定。
ドイツのリンブルグで毎年開催されるウィスキー祭りの限定ボトル。珍しいのはラム酒樽フィニッシュということ。バーボン樽で寝かせたあと、最後が変わってる。最後にラム酒の樽に詰め替えて、少し寝かせて瓶詰めしているのだ。はて、どのような香味が付いているのか。


【評価】
グラスから立ち上る香りは、やわらかい煙とすぐ追っかけてくる砂糖の甘み。樽の淵についた砂糖。煙たさと甘さのコラボレーション。奥にしっかりとしたうまみの芯がある。
口に含めば、飲み口は柔らかく、まるでラム酒のよう。煙たさが柔らかさとなり、うまみをしっかりと届ける。若さがラムにより円熟味を加えられ、面白さとなる。
華やかさを加えたラフロイグ。


※それにしてもラフロイグは崩れない。若くとも長熟でも、今回のようにラム樽フィニッシュでも、その個性を保って、うまみを逃さない。よく「この蒸留所は○○年代がよかった」など言うことがあるが、ラフロイグは間違いなく“現役バリバリ”だ。

【Kawasaki Point】
88point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:Laphroaig 2000 11yo  Limburg Whisky Fair(ラフロイグ2000 11年熟成 リンブルグ・ウィスキー・フェアー)
地域:Islay, アイラ
樽:Oak, Bourbon Hogshead, Rum, バーボン・ホグスヘッド、ラム
ボトル:Limburg Whisky Fair, リンブルグ・ウィスキー・フェア

One of 276 Bottles

2000年に蒸留され、寝かし、2011年に瓶詰めされている
やわらかい煙とすぐ追っかけてくる砂糖の甘み。
煙たさと甘さのコラボレーション