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いくつになってもウィスキーを愉しむために知っておきたい7つのこと

「より長くウィスキーを愉しみたい」と考える人にとっての最大のリスクは、ドクターストップで「もう飲めなくなる」という状態になることだろう。

誰もが避けたいこのシナリオは、単に適正な知識がないことによって、いとも簡単に陥ってしまう場合がある。

この記事では、飲酒に関する7つの基礎的な知識を紹介しよう。もちろん、ここに書かれているのはあなたへの医療的なアドバイスではないし、強制でもない。「へぇ」というトリビアとして受け止めてもらっても構わないし、酒のネタにしてもらってもいいし、もちろんスルーしてもよい。

7つの知識の内、そのひとつが役立つかもしれないし、全部かもしれない。あるいは全部知っていることで単に確認ができるだけかもしれない。

実は、ウィスキーを推奨する立場にあるウィスキーブログとしては、ウィスキー熱に水を差したくないという思いもあるためこの話題について表現の難しさも感じている。しかし、健康とウィスキーの愉しみの両立を考えたとき、この話題は多くのウィスキー好きに役立つとも感じ、公表するにいたった。

おいしいウィスキーを長く愉しみたい

さて、ひとつずつみていこう。

ポイント1. 飲める人、飲めない人、少し飲める人のタイプを知りたい

“酒の強さ”には3タイプあるのをご存知だろうか?
これは遺伝によって決まっている。アルコールを分解すると有害な【アセトアルデヒド】(頭痛や吐き気の原因)が生まれるが、身体はこれを無害な物質に分解しようとする。この分解酵素がどれぐらい働くか?が遺伝で決まっている。

  • まったく飲めないタイプ(6%)
    • 【説明】 ひとくち(~1杯)で顔がすぐ赤くなったり動悸・頭痛がする。アセトアルデヒドを分解する酵素がまったく働かない。
    • 【リスク】 自分から飲まないので、アルコールによる危険がほとんどない。ただし、無理に飲むとガンのリスクがとても高まる。
    • 【注意】 このタイプの人に飲酒を進めることは暴力的な行為となる
  • 弱いけど少し飲めるタイプ(38%)
    • 【説明】 全く飲めないわけでないが赤くなる、動悸・頭痛がある。「昔は弱かったけど慣れた」などの発言。すこしだけ酵素がはたらく。
    • 【リスク】 習慣的に大量飲酒すると耐性がついて頭も痛くならず吐き気もしなくなるので、「飲めるようになった」と感じやすくなる。(アセトアルデヒド専門の酵素とは別の酵素群が代替的にはたらくようになるから)
    • 【注意】 このタイプが「酒に慣れ」て「たくさん飲む」と、ガンや肝機能障害につながるリスクが高いと言われている。つまり、根本的に強くなったわけではない。
  • 飲めるタイプ(56%)
    • 【説明】 割とスイスイ飲める。アセトアルデヒドを分解する酵素がはたらく。
    • 【リスク】 「自分は飲めるタイプだ」という認識のもと、さしあたって不都合な症状も起こりづらいため、酒量が多くなりがちの傾向があると言われる。
    • 【注意】 酒量が多くなりがち。アルコール依存症人の8割強がこのタイプなので気をつけたい。

(ちなみに上記のタイプ分けはモンゴロイドだけ。白人や黒人はほぼ全員が「飲めるタイプ」)


あなたはどのタイプ?

気になる自らのタイプだが、だいたい飲酒経験から9割程度ただしく自己判別できるといわれている。ただもしあなたが20歳になりたててで、とても気になれば、下記のような検査をやってもいいかもしれない。


アルコール体質試験パッチ 3枚

ちなみにバンソウコウでも同じことができる。アルコールパッチテストの手順は以下のとおり。

  • バンソウコウに消毒用アルコールを2~3滴染みこませる
  • 上腕の内側に貼る(ひじの内側よりやや肩寄りの位置)
  • 7分経ったらはがす
    • 貼っていた箇所が赤くなっていたら【飲めないタイプ】
  • はがした後10分後にもう一度見る
    • 貼っていた箇所が赤くなっていたら【弱いけど少し飲めるタイプ】
    • なんの変化もなければ【飲めるタイプ】
(参考:アルコール代謝の体質が簡単にわかるパッチテスト サントリー


GENOTYPIST アルコール感受性遺伝子分析キット(口腔粘膜用) では、遺伝子から調べることもできる。これはよっぽど確かめたい場合でよいだろう。



ポイント1の結論 : お酒の強さは先天的に決まっている。無理をしない&させないが重要




ポイント2. 1日あたりの適量を知りたい


1日のアルコール適量はどれぐらいだろうか?
(※ここから下は上記の【飲めるタイプ】を基準に書いていく。【弱いけど少し飲めるタイプ】の人は下記基準より少ないと考えて欲しい)
個人差や性差が大きいが、ピュアアルコールで20gまでが「適正飲酒」の範囲とされている。ピュアアルコール(純アルコール)とは、お酒の種類が何であろうと、そのお酒に含まれる「アルコールそのものの量」のことを指している。ウィスキーでいうと約「シングル2杯分」と覚えるとよいだろう。これぐらいの飲酒量は病気の種類によってはむしろリスクが減ると考えられている。

式: シングル1杯30ml ✕ 2杯 ✕ アルコール度数40% ✕ 比重0.8 = 19.6gのピュアアルコール
(ちなみに、ビールだと500mlのロング缶1本程度が適量)

※女性の場合上記の1/2~2/3が目安量

ポイント2の結論 : 1日あたり、シングル2杯で愉しみましょう





ポイント3. 高リスクな酒量を知りたい

適量はピュアアルコールで20g程度とされているが、許容範囲は40gまでとされていてる。
40g以上は健康に対して高リスク、60g以上になると多量飲酒でかなり危険と位置づけられる。
※女性の場合1/2~2/3が目安量

それぞれの純アルコール量目安
適量  :20g程度 ・・・ シングル2杯
許容  :40g未満 ・・・ シングル3杯
高リスク:40g以上 ・・・ シングル4杯以上
多量  :60g以上 ・・・ シングル5杯以上

ポイント3の結論 : 多い日も、シングル3杯までにしたいですね





ポイント4. 「危険飲酒」を知りたい ~チェック付き~

これまで飲酒量にフォーカスしてきたが、どのような酒の飲み方か、というあなたの飲酒パターンが「危険飲酒」か「有害飲酒」か、割と安全な飲み方かなどを知るためのテストがある。WHOが開発した国際標準検査、AUDIT(オーディット)というものだ。

一番よくまとめられているのはキリンビールのサイトなので紹介しよう。
まず【STEP1】で普段摂取しているアルコール量を知ろう
そして【STEP2】の「Audit」をやってみよう。

アルコールによる害を知るために、このAuditは極めて有用で簡単なテストだ。たった10問しかないので、気軽にできる。もしこのAuditで高得点がでたら、医療機関を介入させることが大切だ。アルコール依存症あるいはその一歩手前のプレアルコホリックの状態は「否認の病気」と言われるため、自らがその状態を認めることは難しいかもしれないが、健康的な生活をおくるためにはとても重要な事なので、医療機関を調べ専門家のアドバイスを受け入れて欲しい

ポイント4の結論 : Auditで自らの飲酒パターンをチェックしてみよう



5. 飲むスピードと水分について知りたい

さて、体質と飲酒量、それから飲酒パターンがわかったところで、もう少し現場の話をしよう。どれぐらいのスピードで飲むのが良いのか、またどの程度水分を取ればよいか、という話だ。
飲むスピードが速すぎると身体にとって良いことはない。ウィスキーの1杯あたりの量は30mlなので、ビール中ジョッキの1/10程度の量しかない。この程度なら、クイッといってしまおうか・・・そう考えるとしたら大変危険だ。
最低でも1杯(1ショット)は30分はかけて飲むのが良いだろう。

脳が「酔っ払ってきたな~」と感知し始めるには30分程度はかかるし、空腹時に飲むと急激に血中アルコール濃度が高くなる可能性があるので(ウィスキーは食後酒なのでこのケースは少ないだろうが)、ともかくゆっくり飲むのがよい。

また、アルコールには利尿作用があり、水分が失われ脱水症状になりやすいため、ウィスキーについてくるチェイサーはちょくちょく飲んでおこう。理合想的にはシングル1杯につき、コップ1杯の水を飲むと良いだろう。

ポイント5の結論 : 最初の30分は特にゆっくりと。シングル1杯につきコップ1杯の水を。




6. 避けるべき未成年飲酒とアルハラ

「未成年飲酒」と「アルハラ」(=アルコール・ハラスメント)は、一見つながりが薄いように思われる。しかし、どちらも「アルコールにまつわる知識不足が深刻な影響をおよぼし、意識せずに“加害者”になりやすい」という点で共通している。

未成年飲酒は、「ちょっと1杯ぐらいいいじゃないか。お前も飲め」的に大人が気軽に勧めがちだし、それがよもや深刻な問題に発展していく可能性があるなどと思っていないケースが多い。それはちょうど昔の飲酒運転のようなものだ(かつて日本にも「ほろ酔い程度なら大丈夫」とした時代があったが、今やだれもが飲酒運転は“重大な危険”であると認識している)
未成年飲酒のリスクは、下記の2つが代表的だ。

  1. 本人への身体的被害(脳の萎縮、アルコール依存症の高い危険、性機能の発達阻害)
  2. 社会的被害(暴行事件との関連性)

たとえ少量で一時的であっても、大人は未成年に飲酒を勧めてはいけない。

また、アルハラは、下記の5つがその定義だ。
  1. 飲酒の強要
    1. 上下関係や場の雰囲気を利用した、有言または無言の圧力
    2. 脅迫であるとみなされれば強要罪に問われる
  2. イッキ飲ませ
    1. ペース速く飲むことも含まれる
  3. 意図的な酔いつぶし
    1. 飲みつぶれることを目的として飲むこと。アルコールの有害な使用
    2. 傷害罪に問われる
  4. 飲めない人への配慮を欠くこと
    1. 体質や体調を無視して勧めること
    2. 飲めないことをからかったり侮辱すること、軽口をたたくこと
    3. 宴会で酒しか用意しないこと
  5. 酔ったうえでの迷惑行為
    1. セクハラ
    2. 暴言・暴力
    3. その他迷惑行為
(参考:アルハラの定義5項目 イッキ飲み防止連絡協議会

社会のいたるところでアルハラは起こりえるが、より深刻なのは大学生などの若年層だ。アルコールに対する知識と経験が不十分な状態でのアルハラは、最悪のケースで死を招く。
新歓コンパなどで行われる「アルコールを多量摂取させる」暴力的なイニシエーションが、ときに致死量にまで達してしまい、若者の命を奪ってしまう。知識のなさ、集団心理、アルコールによる判断力の低下が、その要因と考えられている。
大人として気をつけたいのは、小さなアルハラや、ちょっとした未成年飲酒がこれらの重大なリスクへの発展の可能性をはらんでいる、ということだろう。


ポイント6の結論 : 未成年飲酒とアルハラには完全ノー。



7. 定期的な健康診断

アルコールと肝臓の関係を知らない人は少ないだろう。そして肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、自覚症状がでたときにはかなり重度の状態も考えられる。だから、自覚症状がなくても定期的に検査し、自らの状態をチェックするのが望ましい。
なにもアルコールに限った話ではないが、年に1度は最寄りの機関で健康診断を受けるのが良いだろう。所属する組合や保険の状態により変わるが、新規で費用負担がかからない場合も多いし、自己負担の場合も1万円程度だろう。これは「年間の飲み代の一部」と思えば非常に安く感じることもできる。気になる人はよりリッチな検査を受けても良いだろうし、完全に個人の自由で納得行くまで検査するのが良い。



生活習慣病12項目+糖尿病セルフチェック


ポイント7の結論 : 定期的な検査で自らを大切にする。




以上、7つの「知っておきたいこと」を解説した。長い説明だったが、あなたが長期的にウィスキーを愉しみたいと考えている人であれば、これらの内容を楽しんでもらえただろうと思う。
7つの結論を下記にまとめよう。


  1. お酒の強さは先天的に決まっている。無理をしない&させないが重要
  2. 1日あたり、シングル2杯で愉しみましょう
  3. 多い日も、シングル3杯までにしたいですね
  4. Auditで自らの飲酒パターンをチェックしてみよう
  5. 最初の30分は特にゆっくりと。シングル1杯につきコップ1杯の水を
  6. 未成年飲酒とアルハラには完全ノー
  7. 定期的な検査で自らを大切にする


アルコールのポジティブとネガティブの両面を知ることで、ウィスキーを愉しめる大人でありたいと思う方へこの記事を贈る。

百薬の長とはいへど、よろづの病は酒よりこそ起これ。―― 吉田兼好 徒然草/第百七十五段
アルコールの過剰摂取は200以上の疾病や障害の原因である―― WHO Alcohol Key Facts

あなたにとってウィスキーが適量を愉しむものであり、人生を彩るものでありますように。冒頭に述べたとおり、これらの知識をどのように活かすかは完全にあなた次第でいい。

今宵も、よいウィスキーライフを。

あなたとウィスキーに良好な関係を





ウィスキーとブランデーの違いとは?

ウィスキーとブランデー・・・どっちも茶色の液体で、なんだか裕福そうなおじさんが白い毛の長い猫をひざに乗せて大き目のグラスをクルクルさせる・・・というイメージがあるかもしれない。
たしかに共通するところの多いこの酒(ウィスキー、ブランデー)は、飲まない人から見ればだいたい似たようなものだろう。しかし、少し知ってしまえば、その二つが大きく違うものだということに気がつく。

今回はよく「原材料が違う」程度に語られるこの二つの酒の違いについて紹介しようと思う。

ウィスキーとブランデーはどのように違うか


ビールを蒸留するとウィスキーになり、ワインを蒸留するとブランデーになる

いきなり結論から入ると、両方とも下敷きとなる酒があり、それぞれを蒸留させると、ウィスキーとブランデーになる。ウィスキーの下敷きはビールだ。そして、ブランデーの下敷きはワインだ。
(もちろんそれぞれの素材は大麦⇒ビール⇒ウィスキー、ブドウ⇒ワイン⇒ブランデーだ)
ウィスキーはかなり幅広く豊富なアロマを持ち、ブランデーはやはりブドウの芳醇な香りがする。

「蒸留」とは?

「蒸留」というのは、酒をぐつぐつ煮て、蒸発する気体を逃がさずに、そのまま冷やしてとりだすことだ。もしあなたが無人島に漂流してのどが渇いたなら、海水をぐつぐつ煮て、上がってくる水蒸気をあつめて飲み水にしたいと思うだろう。蒸留はまさにその作業だ。ぐつぐつ煮て、蒸発した望ましいものだけを抽出する。

蒸留器(ポットスチル) 蒸気を集める

蒸留器は下からぐつぐつ煮る

ウィスキーは反逆精神、ブランデーはブランディングの酒

ふたつの酒の成り立ちの物語をカンタンに触れておくと、この違いが際立つ。世界史的には、両方ともアラビアで開発された「蒸留器」(その名も“アランビック”)を手に入れた各地の人々が、それぞれの酒を蒸留させただけ、といえばそれだけなのだが、ウィスキーはその誕生に「密造酒」というアウトローなスパイスがあり、一方ブランデーは意図的に「高級路線」をとったコマーシャリズムがあった。


密造酒だったウィスキー

18世紀初頭まで、ウィスキーは熟成させていないただの度数の高い透明な酒だった。時の権力者がスコットランドの麦芽税を15倍にはね上げた。これに酒造りにいそしむ人々は反抗し、ひっそりと山奥に隠れて酒造りを続けた(なんたる反逆精神!)。さらに、徴税官の目を逃れるため、古いシェリーの空き樽に入れて酒をカモフラージュした。しばらく置いて飲んでみると、透明だったものが茶色くなって、豊かなアロマがあることが発見された。「樽で熟成させると美味い!」これが今のウィスキーの誕生の歴史。


卓越した航海技術を誇るオランダ人が生んだブランデー

17~18世紀、ブランデーは庶民の酒だった。その当時、オランダ人は卓越した航海技術を誇っていたが、アルコール度数の高いブランデーの輸送のしやすさ(劣化しにくさ)に目をつけ、これをイギリスに売り込んだ。当時は、「ヴァン・ブリュレ(ワインを焼いたもの)」とちょっと無粋な名前で呼ばれていたものを、「ブランデ・ウェイン(熟したワイン)」と呼んでイギリスで高級ブランド化した。この路線がヒットし、ブランデーは貴族の間で愉しまれるようになり、本国フランスでも受け入れられた。これが現在に到るブランデーの歴史。

ちなみに、ワインにブランデーを混ぜてアルコール度数を上げたものを、ポートワインという。これも同じ時代に輸送のしやすさ(劣化しにくさ)に着目してつくられたものだ。ポート(港)のワイン。海運がメインだった時代の情緒ある名前だ。



さて、ウィスキーとブランデーの違いについて、原料以上の歴史があることを少しでも面白いと感じてもらえただろうか(もうしそうならこの記事は本望だ)。単に二つのボトルを並べても、その違いを大きなものとは感じないかもしれない。だが、上記のような誕生の歴史まで知ってしまえば、もうウィスキーとブランデーを同じようなものと思うことはないだろう。
ウィスキーを飲むとき、このことをちょっとでも思い出してもらえなたら、味わいがまた違ってくるかもしれない。今宵も、よいウィスキーライフを。


乾杯

※ちなみに※ この記事で用いたウィスキーとブランデーという用語は、より広義な使用のされ方もある。モルト(大麦麦芽)以外を原料とするウィスキーもあるし、ブドウ以外を原料とするブランデーもある。区別するときは、○○ウィスキーとか、○○ブランデーなどと言う(ライウィスキー、アップルブランデーなど)。



ウィスキーの保管の仕方:テクニック編

この記事は、自宅でウィスキーをいかに保存するかのテクニックについて紹介する記事だ。(保管の理論を紹介したロジック編はこちらを参照してほしい)
家飲みのウィスキーのための、5つの保管テクニックは下記の通り。

共通ポイント:香り分子を変質させない・逃がさない

どの方法もポイントは、ウィスキーを紫外線に当てず、酸素に触れさせず、ウィスキーの香りを逃がさないということだ。簡単に実践できるものから順に紹介する。


その1. 「光が届かない、もっとも涼しい場所」で保管する※ただし冷蔵庫以外

ウィスキーは、自宅の中で、光がまったく届かず、一番涼しい場所で保管しよう。ただし、この定義だと冷蔵庫も当てはまってしまう。冷蔵庫は考え物だ。他の香りがつく心配もあるし、冷えすぎてしまう。また、都度冷蔵庫から出して飲む際のタイムロスや温度変化を考えると単にまどろっこしい。気をつけなければいけないのは紫外線を発生させるモデルの冷蔵庫では、ウィスキーの香り分子が変質してしまう危険性が高い。(※冷蔵庫はNGだが、15℃程度に温度設定できるワインセラーなら理想的といえる。ただ、ウィスキーはタフな酒なので、気を遣ってもワインほどの変化はない)


その2. 箱に入れて保存 

ウィスキーを買ったときの箱にそのまま入れて保管するのはオススメだ。大抵、光を遮断してくれるし、多少の衝撃も吸収してくれて安全だ。(少し場所をとるのがやや難点)

大切なウィスキーの箱を取っておこう

光を遮断できる

※より完璧な遮光(紫外線対策)を目指すなら、アルミシートやアルミホイルを使うのが手軽だ。箱の内側に貼ってあればもうほぼ完璧といえるだろうし、ボトルそのものに巻きつけたり、ボトルを格納する場所にどうしても一部光が入る場合もアルミホイルで塞げばいい。(商品:クッキングホイル 30cm×50mC)。


その3. パラフィルムを使ってボトルを密封

ボトルとボトルキャップとのわずかな「間」から、アルコールが抜けたり、外の空気が入ったりするのを防ぐのが、パラフィルムだ。(商品:エル・エム・エス パラフィルム4インチ 長さ125フィート PM996
もともとは実験室で使われる素材だが、多くのバーで使用されている。小さく切って、少し伸ばしながら巻きつける不思議な素材。これを使っているかどうかで、香りを愉しめる期間がかなり違う。

巻き付け方の詳細は動画で見られるようにした。


パラフィルムをこれぐらいに切って

引っ張りながら巻く

巻き終わった。これで密閉。


その4. 小瓶に移し変えて、空気の量を減らす

ボトル自体をどんなに密閉しても、ボトルに含まれる空気(≒酸素)がウィスキーの香り分子を酸化させる。だから、小瓶に移し変えてしまえばいい。小瓶と移し変える手間がすこしかかるが、かなり効果的な方法だ。

詳しい解説は動画を見てほしい。

参考:動画中の「密閉タイプの瓶」はこちら(『ボルミオリ・ロッコ』 スイング ボトル 0.25L
参考:動画中の「イチョウ型の“ろうと”」はこちら(シリコン漏斗 イチョウ グリーン 07438
※この“ろうと”は収納に便利。しかしもっとデザインを気にしなければ百均にもあり機能は一緒。


その5. プライベート・プリザーブで酸素からの遮断層をつくる

プライベート・プリザーブはもともとワイン用の商品だが、原理はごくシンプル。ウィスキーのすぐ上にガスの層を作ってしまって、酸素とウィスキーを隔離するものだ。多くのワイナリーで採用されている。(商品:プライベート プリザーブ private preserve
3~4回、シュッ、シュッと吹き込めばOK。割合に手軽な方法だが、頻繁に飲む人はやや面倒に感じるかもしれない。

使い方の詳細は動画を見てほしい。



その6(奥義):さっさと飲む

どのような保管方法も、この方法にはかなわない。どのような方法も時をとめることはできないが、時間とともにウィスキーの香りは失われていく。
栓を開けてから2~3日はどんなウィスキーもほぼ同じクオリティで飲める。ただ、1週間以上になると、徐々に変化がある。その変化を愉しむ、という発想もあるが、出来る限り豊かな香りを愉しもうとするなら早く飲むに越したことはないのだ。
だが、それができないから、さまざまな保存方法を、われわれは頭をひねって生み出している(それで開栓後も数ヶ月はいける)。いずれにせよウィスキーを飲むときに「完璧」はあり得ない。あれこれしても、最後はどうかおおらかな心でウィスキーの香りを存分に愉しんでほしい。

ちょっとやそっとではその魅力は失われないのが、ウィスキーという酒のタフなところだからだ。





ウィスキーの保管の仕方:ロジック編

ウィスキーをおいしく飲むために、どのような保管が望ましいだろうか?
せっかく家飲み用に買ったウィスキーのボトルも、しらばく経ってから飲むと、肝心の香りが失われていることがある。それはもしかしたら、保管・保存方法に問題があったのかもしれない。そうならぬよう、この記事の知識が役に立てば嬉しい。尚、手っ取り早くテクニックだけ知りたい方はテクニック編を参照してほしい。



大前提としてウィスキーはとてもタフな酒

ただ、まず最初に断っておきたいのは、ウィスキーはタフな酒であるということ。他の酒と違って、少々のことでは劣化しないし、身もフタもないのだが、そもそも完璧に劣化を防ぐ方法は「時を止める」しかない。時とともにすべてが変化するから、完璧な保存方法なんてあり得ない。そんなわけで、気にしすぎず、どうかおおらかに飲んでほしい。

ウィスキーのボトルを買って、ウィスキーの“何を”保存すべきか?

ウィスキーの何を保存するかをハッキリしておこう。ずばり、それは「揮発性物質」だ。分かりやすくいえば「香り物質」。分子レベルの物質が、嗅覚を刺激することで、ウィスキーは飲む香水となる。これは1本のボトルの中に測定不能なほど、たくさん含まれているが、空気中に漂うものだ。だから、逃げていくものでもある。また、酸素と結合したり、紫外線を浴びれば、別の物質になってしまう。
だからウィスキー保存の基本的な考え方は、揮発性物質を紫外線や酸素に触れさせないということだ。


大敵なのは日光と空気だから、遮光と密封が大切

太陽の光に含まれる紫外線の光エネルギーは強く、ウィスキーボトルの分厚くて暗い色のガラスも容易に貫通し、中身に変化を与えてしまう。だから、ウィスキーは「絶対に太陽光の当たらないところ」に保管する必要がある。直射日光はもちろん、「太陽の光によってうっすら明るい部屋」に置くのもNGだ。
また、ウィスキーを余計な空気に触れさせないため、ボトルの栓をしっかりする必要がある。これについてはいくつかテクニックがあるので、後ほど「テクニック編」で触れたいと思う。

よく言われる“冷暗所”の定義は曖昧だし、現実的ではない

「ウィスキーは冷暗所で保管しましょう」とよく言われる。この曖昧な説明は、理系の人たちからの「冷暗所って何度だよ!」というツッコミとセットだが、一応定義を調べてみた。
日本工業規格(JIS K0050 化学分析方法通則)によれば「冷所」とは1~15℃を指す。ただしこれをそのままウィスキーに当てはめるべきでないと私は考える(もちろん理想的ではあるが)。しかし、何℃なら良いのか?というギモンの参考値としては、ウィスキー蒸留所の気候がヒントになるはずだ。アイラ島の夏の気温は20℃程度、北海道の余市では30℃程度、このことから、理想的には20℃程度、許容範囲は30℃以下だろうか、できれば30℃を超える日は多くないほうが良い。

ただ、このように温度の定義を考えるとき、いつも思うのは「日本の住宅でこの定義がなんの役に立つだろうか?」ということだ。ウィスキーのために「冷暗所」をわざわざ設置するのはほとんどの人にとって非現実的だし、仮に冷蔵庫に入れたとしても、冷えたウィスキーを常温にもどす時間がまどろっこしく感じてしまうだろう。
そんなわけで、当ブログではウィスキー保管の定義を明確に新しくしてしまう。

「あなたの自宅のもっとも涼しい場所」

に保管してください、と。前述のようにウィスキーとはタフな酒であるし、これ以上に現実的な定義はないだろう。(もちろんこのアドバイスはあなたのウィスキーが劣化しないことを保証するものではない)

さらに付け加えるなら、強い香り(=別の香り分子)のある場所での保管はオススメしない。完璧な密閉はあり得ないので、他の香り(防虫剤、唐辛子、等など)がないところが良いだろう。


ウィスキー保管のロジックまとめ


  • 香り分子を「変質させない
    • ウィスキーを酸素に触れさせないこと
    • ウィスキーを紫外線に当てないこと
  • 香り分子を「逃がさない
    • ボトルは出来うる限り密封状態を維持すべきである
  • ウィスキーに変化を生じさせる不利な状況を作らないこと
    • 強い匂いがない場所で保管されるべきである(他の香り分子がウィスキーの中に溶け込むとよくない)
    • 年間を通じて20℃程度(20℃±5℃、あるいは30℃以下)の場所での保管望ましいが、実際には「あなたの自宅のもっとも涼しい場所」(冷蔵庫を除く)での保管が現実的である

以上、ウィスキーの保管になにが大切であるかがわかってもらえたと思う。
これらの知識を参考に、今宵も楽しい家飲みライフを。


参考)ウィスキーの保管の仕方:テクニック編



そもそもウィスキーとは何か?(後編)

ウィスキーとは何か、というのを、ウィスキーの魅力の面から語ろうというのがこの記事の趣旨だ。「そもそもウィスキーとは何か?(前編)」では、ウィスキーの香り特異性である「凝縮」、すなわち、
たった1滴の中から宇宙が見えるような、香りの爆発
の背景には、ワインやビールにはない「蒸留」という工程があることを明かした。
後編ではすでに予告していた通り、ウィスキーのロマンティックな面、すなわち、「熟成」に焦点を当ててみたいと思う。


ウィスキーは時が育てる

ウィスキーをひと口含む。あなたはその瞬間に、そのウィスキーが生まれてからの数年から数十年を味わう。その時間を経たウィスキーがあなたの嗅覚と味覚を満足させてくれる。ところで、この酒の評価は、生まれたときにはまったく定まらない。どう育つかで評価が決まるのが、面白いところだ。だから、生まれた年の「当たり年」や「はずれ年」もない。生まれた瞬間に評価がある程度決まってしまうより、その後の時によってなにかが作られていくほうが、ずっとロマンがある。
では、ウィスキーはどのように育つのだろうか?

樽の中で眠っているウィスキーに何が起きているのか?

木の樽の中でウィスキーは、時間をかけてゆっくりと変化する。何千という自然の香味成分が、樽の中で徐々に調和していく。隣り合う同じような樽のはずなのに、中身は毎年違うものになっていく。樽の中では、無数の科学的な反応が絶えず起こっていると予想されている。
つまり、毎日、何かが足されて、何かが失われていく。それは神秘的なプロセスで、その熟成の秘密は、科学的にも解明できていない。

だから、どんな風に育つかは、まったく予想ができない。若いときに「ぜんぜんダメだ」と思われた樽も、しばらく寝かせて、年月を経たとき、素晴らしい樽になっていることもある。樽の材質なのか、気候なのか、どういう条件が揃えば「よいウィスキー」ができるか、よく分からないのだ。そのウィスキー自身にも未来とは暗闇のなかで必死に模索するもので、自らの可能性を信じながらも、不確実性の毛布に包まれて育つ。

ウィスキーは、たくさんの偶然と、毎日変化する無数の環境要因によってつくられている。

つまり、時間に揉まれ磨かれることが宿命の酒だ。
その液体を口に含むとき、あなたはその宿命を感じながら、そのウィスキーが辿ってきた時を飲む。厳しい冬や、穏やかな春。爽やかな夏や、切ない冷え込みの秋を、いくつもくぐって。もし、このことを少しでも感じながらウィスキーを飲んだなら、あなたはもう、ウィスキーの虜で「なぜウィスキーを飲むのか」の答えを、たしかに実感しているだろう。

ウィスキーをつくる「熟成」とは、なんと人間らしいプロセスで、なんとロマンティックなのだろう。
今宵も、素敵なウィスキーライフを。



そもそもウィスキーとは何か?(前編)

ついうっかりしていて、「ウィスキーってなんだっけ?」という疑問に答えていなかった。
ウィスキーブログとして迂闊だった。
Wikipediaに載っている歴史とか科学とかはさて置き、ここでは飲み手としてのウィスキーを語ろう。

  • ウィスキーってどんな美味しさなの?
  • なんで人は他の酒がある中でもウィスキーを飲むの?

といった観点から、ウィスキーとは何かを紹介しよう。



ウィスキーの美味さは、その香りにあり

なぜ人がウィスキーの虜になるのか、その秘密は香りにある。ウィスキーの香りは、ほぼ香水なのだ。なんでも一杯のウィスキーには、数千の香りが含まれているとか。代表的な香りは、、

  • 木の香り
  • バニラの香り
  • チョコレートの香り
  • 花の香り
  • レモンの香り
  • リンゴの香り
  • 煙の香り
  • 皮の香り

などがある。(詳しくはこのブログのさまざまなテイスティングコメントを参考にしてほしい)
なぜ多様な香りを凝縮できるのか?それは香水と同じで、「蒸留」という神秘的なテクニックを使うからだ。


蒸留して、樽で寝かせるから神秘的に香る


香りだけなら、ワインもビールも豊富ではないか、と思うかもしれない。
確かに香りの「豊富さ」ではワインもビールも素晴らしいのだが、ウィスキーの香りは「豊富」であると同時に、「凝縮」しているのだ。たった1滴の中から宇宙が見えるような、香りの爆発。それがウィスキー特有の「香り体験」をつくりだす。

なぜウィスキーの香りは、香水のような、エッセンシャルな香りの「凝縮感」があるのか。
それはワインにもビールにもない「蒸留」という工程が2つの効果を生み出すからだ。

ひとつ目の効果は、蒸留することで香り成分を取捨選択できること。これは蒸留器の「形状」によってコントロールできる。香りの科学だ。

ふたつ目の効果は、アルコール度数を高めることで木の樽の香りを最大限に得られること。
ワインもビールも(ついでに日本酒も)、蒸留していない醸造酒で、アルコール度数は高くても20度程度だ。ウィスキーは、醸造酒をぐつぐつ煮て「蒸留」してつくるから、蒸留したてのウィスキーの原液は60度以上ある。ここがポイントで、木の樽はアルコール度数が60度程度のとき、たくさんの香り成分が溶け出すという。
だから、人類が「蒸留」という技術を手に入れないと出会えなかった自然の香りが、ウィスキーには含まれているのだ。

ウィスキーのできるプロセスはざっくり4つ。香りに注目してみよう。

  1. 自然の原料を採取、加工
  2. 微生物の力で醸造(香り成分とアルコールが生まれる)
  3. 蒸留器で蒸留(好ましい香り成分だけ抽出し、アルコールを凝縮させる)
  4. 木の樽で熟成させる(木の香り成分と、その土地の風の香りもついていく)

大まかに言えばワインやビールは「2」番どまり。3番以降は、人類が「蒸留」という技術を手に入れるまでは出来なかったのだ。(当時はあまりに神秘的すぎて魔術の一種と思われていたようだ)

ここまででも、ウィスキーのユニークさ(独自性)が分かってもらえたと思う。数千の香りが凝縮したウィスキーを口に含んだ際の、その香りの爆発はウィスキー特有のものだ。
「なぜ人がウィスキーを飲むのか」の秘密に少し迫れたと思うが、もうちょっとロマンティックな話もしておかなければならない。でもそれはまた、後半に引き継ごう。


後編はこちら
そもそもウィスキーとは何か?(後編)



ウィスキーの「シングルカスク」とは何か?

たまにしか聞くことはないが、「シングルカスク」とはなんだろうか?どういう意味だろう。

シングルカスクの意味

答えは、「ひとつの樽から取り出して、そのまま瓶詰めしたウィスキー」だ。
ひとつの樽=シングル・カスク。

ウィスキーの蒸留所にはたくさんの樽がある。樽ごとに風味が違うので、マスターブレンダーは、通常、複数の樽の原酒を理想的な香味になるようブレンドするのだ。原酒をまぜ合わせて、シングルモルトをつくったり、ブレンデッドウィスキーをつくったりする。
参考記事
シングルモルトと、ブレンデッドウィスキーの違いとは?
ウィスキーのシングル・モルトとは何か?

しかし、シングル・カスクはまったくブレンドしないウィスキーなのだ。

ウィスキーは樽の中で眠る。どんな夢を見るか。

関連する「カスクストレングス」という言葉の意味

「カスクストレングス」という言葉もある。
これは、「樽出しのまんま」という意味である。通常のウィスキーは、水を加えてアルコール度数を調整しているが(40~45度程度)、カスクストレングスのものは樽から出したまんまなので、50度ないし60度クラスのものも珍しくない。
「ちょっとそのまんま味わってみてよ」というものだ。
シングルカスクの場合、このカスクストレングスで世に出てくる場合も多い。


科学的な説明だけでなく・・・

と、ここまではよくある説明だが、やや科学的で味気ないかもしれない。
より情緒的に説明すならば、シングルカスクとは「樽の個性を味わうもの」だといえる。手にしたグラスの中にある液体を見つめるとき、実は、あなたはその「樽の個性」と向き合っているのだ。なぜそういえるのだろうか?また、この「樽の個性」は、どんな風にしてわれわれに届けられているのだろうか?

何万樽もの中から・・・

毎年、ウィスキーの蒸留所ではたくさんのウィスキー原酒が蒸留され、たくさんの樽に詰められる。
新樽もあれば、数十年使用した樽もあるだろう。大きな樽、小さな樽、樽の木材もさまざま、かつてバーボンを詰めていた樽もあれば、シェリー酒を詰めていた樽もあるだろう。それぞれの樽にヒストリーがある。

蒸留したての、まったく透明の、ウィスキーがそれぞれの樽に注がれる。

眠るあいだに、個性が育つ

そして、樽は静かに眠る。その土地で、樽は呼吸をする。1年、2年、10年、20年と時間をかけて、横並びの樽の中のウィスキーは、全く違うものへと変化する。もともと同じウィスキーだったものが、“個性”を発揮しはじめるのだ。

ブレンダーは樽に問いかける

ブレンダーは見極める。
「この樽の、この原酒は、そのままで味わえるだろうか?」
「このひと樽で充分なバランスを持っているだろうか?」
「“今”がその時だろうか?」
そうして、何万樽のなかのたったひと樽が選ばれる。

つまりシングルカスクとは

つまりシングルカスクとは、「選ばれた樽の個性」を味わうものだ。はるか彼方の地でねむる、数万という樽の中から、たったひとつ選ばれ、ボトリングされ、われわれの手の中のグラスへと注がれる。
だから、シングルカスクのウィスキーを飲むときには、その樽の過ごした「時間」や、育った「個性」に思いを馳せるのも愉しみとなる。


こんなことを頭の片隅に少し置いておいてほしい。
今宵もよいウィスキーライフを。



シングルモルトと、ブレンデッドウィスキーの違いとは?

よく考えればどうでも良いかもしれないが、ふと気になってしまう、「シングル・モルト・ウィスキー」と「ブレンデッド・ウィスキー」の違いを解説する。

ちょっと気になる“その違い”

シングル・モルトとブレンデッド、ひとことで言えば何が違うか?

ひとことで正確にいえば、「かかわった蒸留所の数がちがう」となる。

シングル・モルト・ウィスキーの「シングル」は「ひとつの蒸留所」を意味する。手に取ったそのひと瓶の中身が、ひとつの蒸留所から生まれたものならば、それはシングル・モルト・ウィスキーだ。

対してブレンデッド・ウィスキーは、ふたつ以上の蒸留所が関わっている。いろんな蒸留所のウィスキーを混ぜ合わせ、ブレンドしたものだ。手に取ったひと瓶の、その中身をつくり上げるのに、数十の蒸留所が関わっている場合もある。つまり、複数の蒸留所のウィスキーをブレンドすれば、ブレンデッド・ウィスキーとよばれる。


流通量はどっちが多い?

圧倒的にブレンデッド・ウィスキーの流通が多い。世界のウィスキーの流通量の8~9割はブレンデッド・ウィスキーと言われている。100~200年ぐらいのウィスキーの歴史の中では、ブレンデッドが王道なのだが、最近になって「蒸留所ごとの個性を愉しむ」シングルモルトも伸びてきている。


ちょっと待って。さっきからシングル・モルトの「モルト」ってなに?

モルトとは、大麦麦芽(おおむぎばくが)のこと。これがモルト・ウィスキーの原料。モルトを原料としたウィスキーだから、モルト・ウィスキー。地域でいえば、日本やイギリス(スコッチ)、そしてアイルランドでは、ウィスキーといえば、モルト・ウィスキーのことを差している。
(ちなみにカナダでウィスキーといえば、ライ麦が主原料のライ・ウィスキー。アメリカでウィスキーといえば、もちろんトウモロコシ主原料のバーボンウィスキー)
シングル・モルトとは何か?についてはこちらの記事を参照してほしい。


ブレンデッドの立役者、「グレーン」ってなに?

「安くて美味いウィスキーをつくる手段はないものか」と考えていくと、グレーン・ウィスキーに突き当たる。グレーン・ウィスキーは、安くつくれる。モルト(大麦麦芽)以外の穀物(主にトウモロコシ)でつくるウィスキーのこと。ただし、モルトのような強い香りの個性はない。
ブレンデッド・ウィスキーの場合、ほとんどがモルト・ウィスキーと、グレーン・ウィスキーを混ぜている。いくつかのモルト・ウィスキーで香味の方向性を決めて、グレーン・ウィスキーでバランスを調整するのだ。映画にたとえれば、ギャラの高い主役がモルトで、主役を支える立役者がグレーン・ウィスキーだ。

このウィスキーという名前の液体に、
そんなに種類があるなんて・・・

ちなみに、「ピュアモルト」ってなに?

日本に流通している言葉で、「ピュアモルト」がある。これは、大きな分類の中ではブレンデッドウィスキーなのだが、グレーン・ウィスキーをつかわず、モルト・ウィスキーだけでブレンドしました、というアピールだ。主役級が勢ぞろいの映画みたいなものだ。日本にはどうも純粋信仰みたいなものがあるので、「シングル」とか「ピュア」とか言うと、ありがたい、と感じる人が多いため、この言葉は、ウィスキーのまじめな分類というより、ほとんどマーケティング用語である。


もひとつちなみに、「ヴァテッドモルト」ってなに?

今はあまり使わない表現。ピュアモルトと同じ意味。モルト・ウィスキーと別のモルト・ウィスキーをまぜあわせて作ったウィスキーのこと。「もうそれ、ブレンデッド・ウィスキーでいいじゃん」ってことで、数年前からスコッチウィスキー協会が「もうヴァテッドって言葉はやめよう、ブレンデッドで統一!」と宣言。
(テクニカルに言えば、シングル・モルトもヴァッティングするし、ピュア・モルトもヴァッティングするので、両方ヴァテッド・モルトと呼べてしまって、超ややこしい。忘れてください)
※WWA(World Whisky Award)では、モルト・ウィスキーだけをブレンドしたウィスキーのことを、「ピュアモルト」とも「ヴァテッドモルト」とも言わず、「ブレンデッド・モルト」と表現。


結局、シングルモルト・ウィスキーとブレンデッド・ウィスキーの違いを知ってどうする?

正直な話、「へぇ~」といえるトリビア以上のなにものでもない。シングルモルト・ウィスキーといえども、ひとつの蒸留所の複数の樽の原酒をブレンドしているし、ブレンデッド・ウィスキーはブレンドする地域・種類の幅を広げただけだ。
いずれにせよ、最終的にウィスキーをつくるマスターブレンダーの卓越した鼻によって、今日も素晴らしいウィスキーがこの世に生み出されているのだ。それは本当に神秘的な世界だと、私は思う。マスター・ブレンダーの生み出す豊かな香りの世界観に、私たちは酔う。


グラスを傾けながら、ウィスキーの成り立ちについて少し思いを馳せるのも、楽しいかもしれない。
今宵もすてきなウィスキー・ライフを。



映画のレビュー:『天使の分け前』 世界初のウィスキー映画

映画 『天使の分け前』(Angels' Share)を見た。小気味よい展開。2013年カンヌ映画祭審査員賞受賞。
世界的にも珍しいスコッチ・ウィスキーを前面に押し出した映画だ。
といっても、スコッチ・ウィスキーをつくろう!とか、ウィスキーをめぐる愛憎劇とか、そういう類のものではない。この映画でのウィスキーは舞台装置であり、“きっかけ”なのだ。(だからウィスキーを知らない人にもオススメできる)

『天使の分け前』公式画像。引用

といっても、蒸留所の見学ツアーのシーンや、たくさんの樽の眠る貯蔵庫のシーン、テイスティング、オークションのシーンなど、ウィスキーに興味がある人やウィスキー好きの人が「ニヤッ」とすることは間違いない。ウィスキー評論家のチャールズ・マクリーン(雑誌「ウィスキー・マガジン」創始者)が、ウィスキー評論家の役でかなりガッツリ出演していたことは驚きだ(しかも演技も上手かった・・)。

ではどういったストーリーなのか?
その詳細に言及してしまうと、シンプルなだけに即ネタバレとなる。
全編を通して感じられるのは、イギリス映画的なシニカルなユーモア。皮肉が効いてるっ!ってやつだ。
ウィスキーなどぜんぜん知らない荒くれ者が(映画の中の表現では「クズ」)が主人公で、実はよい鼻を持っていることを発見する。・・・といっても、彼が隠れた天才的なテイスティング能力を発揮し、更生する・・・・という単純な流れでなく、ウィスキーに興味を持つきっかけに過ぎない。

まずウィスキーは立ち直りの“きっかけ”を与える。彼女との間に子供ができて、今のままじゃダメだと立ち直ろうとし始める彼を導いてくれる良き指導者がいる。ハリーというオジサンだ。ワルたちの社会奉仕活動の取りまとめ役だ。このオジサンがなかなか良い味をだしている。主人公のロビーに子供が出来たことを知ると、「もらいものだが」といって、スプリングバンクの32年を棚からスッとだしてくる。いかにグラスゴーが舞台でも、スプリングバンクの32年が出てくるというのは、この指導者のハリーがウィスキー好きであることの良い紹介の仕方だ。

次にウィスキーは、主人公が小さな旅をするとき、人間のいろんな面を知る“きっかけ”を与える。
前半では主人公がいかに「クズ」かということが丁寧にリアリティをもって描かれている。この主人公目線でウィスキーをめぐる大人たちを映し出すことで、皮肉が効いてくる。希少価値の高いウィスキーが高騰していく一方で、本当にその味が分かるのか、といった“矛盾”や、正しいことと正しくないことの“ものの見方”が、印象づけられる。善と悪をハッキリ分けてしまうハリウッド映画にはない複雑性を奏でている。

最後は小気味よく締めくくる“きっかけ”としてウィスキーが最高の登場をする。
これはぜひ観てほしい。まさに『天使の分け前』だ。


この映画の感想を、ウィスキーの香味の表現に置き換えるなら、苦く、ビターで、ヒリヒリとする刺激を持ちながらも、まろやかな樽香、そして、ミントのような爽快な後味、やや長めのホワイトオークの余韻・・。といったところだろうか。
複雑な味わいだが、「クズ」と呼ばれる若者の状況に対する監督の愛情が感じられ、「善き指導者」への想いが明確に感じられる。そして、ウィスキーはブルジョアないしエリートと呼ばれる層が似合う飲み物ではなく(それはワインに任せておいて)、もっと幅広く人間に希望をもたらす飲み物であるという感覚も全体に流れている。


尚、日本の著名なウィスキー評論家の土屋守氏は「オークションで1億円を突破するようなウィスキーが“モルトミル”であるというのは、やられた!という感じ」という趣旨のことを書いていた。
ウィスキー好きの人向けの、ちょっとマニアックな話だ。


たまには映画をつまみに・・・、今宵もよいウィスキーライフを。


天使の分け前 [DVD]
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予告:レポート:余市蒸留所

先日、余市蒸留所を見学し、ウィスキー作りの現場と、日本のウィスキーの父、竹鶴政孝の住まいに触れてきた。わざわざ、ウィスキーアンバサダーの箕輪さん、ウィスキーアドバイザーの小原さんにご案内いただき、現工場長の杉本さん(前マスターブレンダー)にもご挨拶し、お話を伺うことができた。
近々、レポートをUPする予定である。

貴賓室から余市蒸留所を見る。一般には非公開の貴重な体験だった。

蒸留所は素晴らしいが、現実的にすべての人が訪問できるわけではない。
このブログでの蒸留所レポートが、「行きたいがすぐには行けない」という人にとって有益な情報源となれば幸いである。楽しみにしていてほしい。


なぜウィスキーは最初から美味いと思えないか? 後編

なぜウィスキーは最初から美味いと思えないか? 前編からの続き。
前編では、人には「経験値を重ねウィスキーを好きになる臨界点」があり、それは「アクワイアード・テイスト(後天的な味覚)」と呼ばれていることを紹介した。
後編ではさらに掘り下げて、人がいかに「アクワイアード・テイスト」を獲得するか、そしてウィスキーを好きになるためにはどのようにすれば良いかを紹介する。「ウィスキーを好きになるメカニズム」について書かれた文章はほとんど見当たらないから、この記事はボリュームを持たせた。

ウィスキーはいかに人を魅了するか
いかにアクワイアード・テイスト(=後天的な味覚)は育つのか。
まだ味覚が育っていない子供の頃を考えてみるとわかりやすい。

子供にとっての味覚とは

実は人間には先天的な味覚も存在する。子供の頃、文句なしに「うまい!」と感じるのは、「甘み」と「塩み」だ。「甘み」は「エネルギー源」を意味している。糖のエネルギーがなければ人間は生きていけない。また、「塩み」も同様に生命維持に不可欠だ。
子供の味覚にとって「苦味」が意味しているのは「毒」だ。判断力のないうちは苦味は拒否することが生きるために必要なことだ。また、「酸味」が意味しているのは「腐敗」で、これも拒否したほうが得策なのだ。
だからお父さんのビールを一口飲まされた子供は「大人はなぜこの茶色い液体を嬉しがるのか分からない」と心の底から思う。だってそれは子供の味覚にとっての「毒」だから。


食するものによって味覚が発達する

甘いものだけでは栄養が偏る。子供の成長とは、甘み以外の経験を重ねることだ。
そして下記の3つの要素で「アクワイアード・テイスト」は育つ。
  • 頻度
  • 関連情報の豊富さ

これはまさにウィスキーを旨いと思うようになるプロセスと同じなので、ひとつずつ解説していこう。

経験の頻度を増す

その味を経験する頻度が高ければ高いほど、つまり回数も多ければ多いほど、その味に対する感受性が深くなる。これは私がウィスキーを最初50杯飲むまでは美味いと感じず、その後に「美味いかも!」と感じ始めたことと同じだ。コーヒーに砂糖やミルクを入れないと美味いと感じなかったのに、いつしか砂糖の量が減り、ミルクなしになり、ブラックでも美味いと感じるようになるのは、コーヒーの経験頻度が多くなり、その味の繊細さが知覚出来るようになったからだ。

経験の幅が拡がる

ある種の味の経験の幅が大きければ大きいほど、アクワイアード・テイストは開発されていく。ビールの飲み始めに、アサヒもキリンもサッポロもサントリーもないが、同じビールの中で幅をもって経験していくと、これらの違いに気がつけるようになる。最初は普通のビールと黒ビールの違いに気がつくようになる。その後に、ホップを利かせたビールと、ドライなビールの違いに気がつくようになるだろう。むろん、A~Bまでの狭い経験よりも、より幅広くA~Zまで経験したほうが、深く味わいを獲得できる。


関連情報の豊富さ

実はここが最大のミソで、「関連情報」により味覚は変化する。
中の液体の色が分からないようにした黒いグラスで、味を確かめることを「ブラインド・テイスティング」と言うが、これでは本当の「味」は分からない。色も味に影響するからだ。(※ブラインド・テイスティングは特殊な遊び、またはブランド名に左右されない特殊な審査に使用する)
嗅覚と味覚以外は、味に関係ないのでは?と思うだろう。実際には、視覚情報も味に関係する。青く着色した肉は、不味く感じてしまう。実際にレモン果汁はほとんど入っていないのに、黄色く着色された液体は、その味わいに「レモン感」が増されて感じられる。
また、視覚だけでなく、口にするウィスキーの味や香りについての情報も味わいに影響する。ウィスキーに薬の味がすることや、フルーツの香り、蜂蜜の香り、バターの香りなどがする、という情報があれば、味の感じ方が違ってくる。


味わいと記憶

ところで、なぜ関連情報でウィスキーの味わいが違うか?
それは、味わいとは、味に関する記憶だからだ。それこそが「アクワイアード・テイスト」の正体だ。
例えば、子供の頃分からなかった「酸味」がうまく感じられるのは、腐敗ではなく、「醗酵」という自然作用の恩恵を知り、記憶するからだ。「この酸っぱさは、よい酸っぱさだ!」と。「煙たさ」がうまく感じられるのは、火を使い肉や野菜が美味くなることを知るから。バーベキューの美味さは、あの煙たさと共に記憶されている。だから、ウィスキーの煙たさに出会ったとき、その記憶を引っ張り出して「美味さ」として知覚できるようになる。「ムムッ、この煙たさはおいしさの証だ!私にはこの経験があるゾ!」と。


ウィスキーの“香り探し”

数百種の香りの複合体であるウィスキーは、まさにアクワイアード・テイストのかたまりだ。
しかし、はじめてウィスキーに出会ったとき、その香りがあまりに多すぎて、面食らってしまう。ひとつずつの味わいの記憶をうまく引っ張ってこれない。「そんなにいっぺんに言われてもよく分からないよ」状態になる。だから最初、ウィスキーは美味いと思えない。香りの情報量が多すぎるのだ。
では、どうすればよりウィスキーの美味さに気づけるか?
それには、「ウィスキーの香り探し」をしてほしい。ウィスキーはただ漫然と飲むのではなく、その香りの要素をさがしながら飲むことが重要だ。そのための補助として、ウィスキーのテイスティング・コメントがある。このテイスティング・コメントを参考にしながら「ウィスキーの香り探し」をする。
「バナナの香りか・・・うん、確かにそんな香りがするな。。潮の香りもするのか?どれどれ。ほー、そういわれりゃそうだ」などと、ひとつずつ香りを探して、確かめてほしい。
そうするとあなたの脳が「おや、確かにこの香りは前にも味わったことがあるぞ。これはいいという記憶があるゾ。とすると、このウィスキーは、いいものがたくさん詰まった液体だ!」と認識できるようになる。果ては「この香りのハーモニーは、アートだ!」とすら感じるようになる。

これがウィスキーというアクワイアード・テイストの獲得の仕方の最大のコツだ。
(このようにウィスキーとは、あなたの経験を映し出す酒だ。)


最後のまとめ

Q. なぜウィスキーは最初から美味いと思えないのか?
A. 後天的に獲得される「大人の味」(アクワイアード・テイスト)だから。

Q. どうしたらウィスキーが美味いと思えるようになるか?
A. ひとことで言えば「経験値を上げる」こと。
  次の3ステップを踏むと良い。

  STEP1. ちょくちょく飲んでみる(量ではない、頻度だ)
  STEP2. 多くの種類を試してみる(タイプの違うウィスキーを)
  STEP3. テイスティング・コメントを参考に「香りさがし」をする(これが最大のコツ)



この記事をきっかけに多くの人がウィスキーを愉しむことを願っています。
今宵も、良いウィスキー・ライフを。



なぜウィスキーは最初から美味いと思えないか? 前編

ウィスキーの飲み手としての大人(おとな)

二十歳(はたち)の誕生日にウィスキーを飲んだとして、それを美味いと感じることはないだろう。
法律上は大人でも、ウィスキーの飲み手としては、まだ大人とはいえない。

なぜウィスキーは最初から、うまい!と思えないのか?
言い換えれば、最初の内、ウィスキーがはまずいと感じられるのはなぜか?
ある時点まで「まずかった」ウィスキーが、ある時点から「うまく」感じるようになる。その時点はいつくるのか?

琥珀色の魅惑の液体、ウィスキー

ウィスキーの臨界点

私の場合は、ウィスキーなんて最初の50杯ぐらいは美味いと感じなかった。なんとなく、憧れで飲んでいた酒だ。ジャーキーをつまみながら、ジャックダニエルをロックで、そう言うとカッコよい。木のカウンターの焼肉屋さんで、そうですね、白州をロックで、そういうとなんだか大人な感じがした。けれども味はわからなかった。強めのチビチビやる酒だ、ぐらいに思っていた。
ある時点で「あれ、これって美味いかも」と思い始めて今に到る。今にして思えば、どのように味わえばよいか、ウィスキーってそもそもどんな酒か、そんな情報がもっとあれば50杯も飲まずに済んだのではと思うので、そんな人のために、このブログを始めたわけだ。

さて、誰にでも私が経験した最初の50杯のように、「経験値を重ねウィスキーを好きになる臨界点」がある。その臨界点より前までは美味いと感じないのだ。
これを、
アクワイアード・テイスト Acquired Taste = 後天的な味覚
と呼ぶ。
ネット上の多くの記事では、ここまでの説明で終わっているだろう。でも、ここからがポイントだ。
割と一般的な「アクワイアード・テイスト」には、何があるだろう?

  • わさび
  • サザエのにがいところ
  • コーヒー
  • ビール
  • シガー
  • 納豆
  • チーズ
  • 坦々麺
  • 本格カレー
  • キムチ
  • さば寿司
  • 燻製全般
  • ドリアン

こう並べると「あ~なるほどぉ」な感覚があるのではないだろうか。
味覚で説明すると、「酸味」「辛み」「苦味」「煙たさ」が代表的なアクワイアード・テイストだ。
もちろんあなたにも経験があるだろう。


では、人はどのようにしてこのアクワイアード・テイストを獲得するのだろうか?
そこにウィスキーを好きになるメカニズムのヒントがあるのではないだろうか?
それは後編に続く


ウィスキーを飲むなら休肝日は必要か?

ウィスキーを好きで、健康が大切なら、「休肝日」について考えたことがあるかもしれない。

なんせアルコールは魅惑的だ。
飲みたいという誘惑と、生きたいという欲望、天秤にかければ結論は「飲みすぎは良くない」ということになる。あるいは「死ぬときゃ死ぬ」と考えを放棄するか。どちらも実際の健康には役に立たない決意だ。
具体的にどうするのがよいのだろうか?

休肝日の必要性

「休肝日」は必要なのだろうか?答えは、ノーだ。
実は休肝日があるかないかは、その人の健康と関係がない。アルコールはどこまでいっても「摂取量」がポイントだ。飲まない日をいくらつくっても、飲む日にたくさん飲むと死亡リスクが高まる。
では飲む量はどの程度が健康リスクが低いのだろうか?
ウィスキーのストレートでは、1日当たり2~4杯までが健康リスクが低いレベルだ。
当然ながら適量は個人差があるが、それはこの記事では言及できない。では、自らの身体の「NGサイン」にどうすれば気がつけるのだろう?


身体のNGサイン

肝臓は沈黙の臓器と呼ばれ、パンクしてから自覚症状が現れ、そのときにはすでに遅いから要注意だ。もっと前に気づける身体のNGサインは、二日酔い(アルコールの消化が追いつかない)、けだるさ、それから「アルコールを欲する精神状態」だ。もしあなたが平気で2日間(48時間)禁酒できなければアルコールへの依存度が黄色信号だ。そろそろ量を減らしたほうがいい。

ちなみに筆者はいずれのNGサインもないが、実は「飲まない日」を意図的につくっている。最初に言ったことと違う!と思われるかもしれないが、理由があるので、あと少し読んでほしい。


それでも休肝日があった方が良い理由

アルコールの摂取量こそ大切で、飲む日飲まない日はたいした問題ではない。それでも筆者は週に2日間の休肝日をつくっている。ただ、正確には休肝日ではなく、休脳日なのだ。どういうことか?
実はアルコールは眠りを浅くする。すると、寝ている間の修復機能(各種ホルモンの分泌量)が弱まる。
だから、寝酒を避けること。一番いいのは、その日飲まないこと。
肝臓の強い弱いはかなり個人差があるが、アルコールが睡眠の妨げとなることは100%立証されている。
だから、休肝日ではなく、休脳日として「飲まない日」をつくるのがよいのだ。


ウィスキーと休肝日のまとめ

  1. 休肝日のあるないはさほど重要ではない
  2. むしろアルコールの摂取量こそ大事。ストレートなら日2~4杯にとどめるべき
  3. 身体のNGサインは見逃さない(二日酔い、けだるさ、アルコールを欲する精神状態)
  4. 睡眠(脳の修復機能)のため「飲まない日」はつくる方がよい



以上を頭の中に、あなたもよいウィスキー・ライフを。


生命の水と呼ばれるウィスキーは、スマートに飲みたい酒。


ウィスキーの3回蒸留とは何か。それがどうだって言うんだろう。


ときどきウィスキーを飲む際、「このウィスキーは3回蒸留なんですよ」なんて薦められたりする。

蒸留を3回するとは何か。一体それが何のメリットがあるのか。
端的に言えば、蒸留回数の違いは、味と香りの違い。3回蒸留は2回蒸留よりまろやかだ。

ちなみになぜその違いが生まれるか?

3回蒸留するという作業を分かりやすく説明する。

最初の蒸留

まず、麦を原料にアルコールを取り出す。
発芽させた麦をお湯でぐるぐるかき混ぜ、白くてドロドロの「もろみ」と呼ばれるビールの原料みたいなものにする。酵素と酵母の働きで、麦からアルコールを含んだ「もろみ」が作られるわけだ。ドロドロの「もろみ」をぐつぐつ焚いて、その蒸発したものを冷やして液体にする(1回蒸留)。さらさらした液体になり、アルコールの度数が高くなる。

さらに蒸留

その液体をさらに蒸発させ液体にする(2回蒸留)

もいっちょ蒸留

2回蒸留した液体を、さらにもう一回蒸発させ液体にする(3回蒸留)



つまり、ドロドロの個性が強い麦の液体から、徐々に遠ざかって、純度が高くなっているいるイメージ。

蒸留する度、麦の香りや個性を徐々に‘捨てている’ともいえるし、
荒々しさを排して‘研ぎ澄ませている’ともいえる

ほとんどのウィスキーが2回蒸留だ。
だから3回蒸留というのは、わざわざ「3回蒸留ですよ」と言うほどのことなのだ。

何回蒸留か、なんて飲むときにはどうでもいいとも思うことだけれど、知っておけば香りと味の手がかりになるかも。
今日も、よいウィスキーライフを。




ウィスキーで虫歯になるか?

素朴な疑問がこころに引っかかったままだと、健康に良くないらしい。

ウィスキーで虫歯になるか?

この質問は、長生きのために重要だ。健康のため、おいしい飲食のためにも、歯は大切。
ウィスキーで虫歯になるか、つまり、
「歯磨きをした状態で、ウィスキーを飲んだあと、もう一度歯磨きせずに寝てもOKか」だ。
結論から言うと、OKだ。

楽しいウィスキーのために、健康は重要なテーマだ


ウィスキーでは虫歯にならない


ウィスキーで虫歯にはならない。
(歯磨きした状態で、ウィスキーを飲んでも、また歯磨きする必要はないのだ)
なぜなら、ウィスキーに含まれる糖分はほぼ0(ゼロ)だからだ。
いやいや何言ってるんだ、ウィスキーだって甘いのがあるじゃないか、と思われるかもしれない。
たしかにウィスキーには甘みを感じる。だがそれは糖分の甘みではないらしい。


蒸留酒だから虫歯にならない


対して、ビールやワインには糖分がかなり含まれていて、虫歯の危険性がある。
詳しくは「醸造酒と蒸留酒の違い」という話になる。簡単に言うと、ビール(醸造酒)を煮詰めて、蒸発した成分を凝縮すればウィスキー(蒸留酒)になる。ビールに含まれている糖分は蒸発せずそのまま捨てられる。この過程を蒸留という。ちなみに、ワインを煮詰めればブランデーを取り出せる。
(だいたい同じような過程で作られる、焼酎、ラム、ウォッカなどの蒸留酒も糖分がほぼない)
だからビールやワインと違ってウィスキーには糖分がほぼなく、虫歯の原因にはならない。


おつまみ食べたらもちろん虫歯の原因になる


もちろん、おつまみを食べたりすると、歯磨きが必要だ。特にウィスキーに合うおつまみはチョコレートやナッツなど、充分虫歯の原因となりやすいものが多いから注意が必要だ。


寝る前のアルコールは睡眠を浅くし、虫歯ができやすくなる


だからと言って、寝る直前に飲む「寝酒」は睡眠を浅くしてしまうのでオススメしない。
またアルコールだけを飲むと脱水症状を起こすので、チェイサー(水)と一緒に飲むことをオススメする。脱水症状が起こるとそれ自体良くないし、唾液も作りにくくなるので、虫歯になる可能性が高くなるのだ。それを防ぐためにもチェイサー(水)は重要だ。


ウィスキーと虫歯のまとめ


ウィスキーでは虫歯にならない。(当然ながら歯を磨いていることが前提)
おつまみ食べたら歯磨きを。
寝る前のアルコールは睡眠を浅くする。
飲む際にはチェイサー(水)は必須だ。




以上を胸に、よいウィスキーライフを。


ウィスキー初心者が初めてバーで注文するとき、知っておきたいこと(後編)

ウィスキー初心者が初めてバーで注文するとき、知っておきたいこと(前編)に続き、後編をお届けする。この記事は関心が高いみたいで、前編はすごいアクセス数だ。


Q. 飲みたいウィスキーの銘柄が決まりました。飲み方はどうしましょ?

飲み方はもちろん「ニート」にしてほしい。
ニート、というのがあまりに通っぽくてヤだなと思われる方は「ストレートで」とお願いしてみよう。きっと「度数が強いですが大丈夫ですか?」と聞いてくれるはずだ。あなたは、「少しずつ飲むので大丈夫」と答えてみよう。
尚、「チェイサーはいかがなさいますか」と尋ねられる場合がある。これは、「チェイサーは必要ですか?」という意味と、「チェイサーはお水ですか、ソーダですか」という意味が考えられる。チェイサーは水でもソーダでもいいが必ずもらおう。聞かれない場合は、後から勝手に出てくる。出てこなければ「チェイサーをください」と頼もう。

ただ、最初なので、もしどうしてもストレート(ニート)がキツくてだめそうな場合、ぎりぎりオン・ザ・ロックまでは認めよう。ウィスキーが徐々に薄まるので、段階的に香りを楽しめるだろう。(参考:ウィスキーの飲み方 オン・ザ・ロックは氷次第)ただし、あんまり氷をくるくると回し過ぎないように。急激に薄まってしまうのはNG.

ウィスキーを飲む際のチェイサーとは何か

チェイサーは、「追っかけ水」とか言われたりする。ウィスキーを飲んで、ときどきこのチェイサーの水かソーダを飲むと良い。ウィスキーのような度数の高い酒をストレートでガンガン飲むと、血中アルコール濃度が急上昇することもある。ちょくちょく水をはさみながら飲むと、身体に優しいのだ。二日酔いになりにくい。また、香りも都度リセットすることができ、一杯のウィスキーをなんども愉しめる。
※ときどきチェイサーにビールを指定する豪傑がいるが、酔いたいだけなのだろう。
※ロックや水割りのときにこのチェイサーを頼んでも何らかまわない。



Q. ウィスキーは何分ぐらいかけて飲めばいいですか?

初心者が犯しがちな間違いに、ウィスキーをぐびぐび飲んでしまうということがある。ペースは大切だ。一杯のウィスキーは通常20~30分かけて飲んでほしい。最初であればなおさらだ。あなたがもし普段から度数の強い酒をガンガンいくタイプならあまり心配はないが、普段はビールなど、アルコール度数が6~8%程度の酒をごくごく飲んでいる人なら、ウィスキーのような40~60%のアルコールの酒をつい同じ感覚で飲んでしまう心配がある。ウィスキーはちびちびやってほしい。特に最初はまず、香りを愉しむこと。でも、吸い込みすぎてはいけない。これもむせてしまうので、そっと鼻から香りを吸い込んでほしい。最初の一口は、舌でなめる程度で良い。つぎに、ほんの少量ふくむ。少量であればあるほどよい。何事も、徐々に増やしていくことが肝心だ。ときどきチェイサー(水)を飲んで、血中のアルコールを急激に増やすことを防止しよう。チェイサーはなくなれば注いでくれるので、一杯のウィスキーに一杯のチェイサーだなどと律儀に考えなくても良い。チェイサーはぐびぐび飲んでよい。


Q. ウィスキーを飲んでいる間、どうすればよいですか?

基本は黙って飲んでいれば良い。あなたがバーで黙ってウィスキーを愉しんでいれば、それは傍から見て「絵になっている」はず。手持ちぶさたに感じるかもしれないが、何もない一見無駄な時間を愉しむという感覚で良い。もし一杯のウィスキーに向き合えば、あなた自身は愉しむことで結構忙しいかもしれない。
もちろん、最初だということをバーテンダーに告げていれば「いかがですか」と感想を聞いてくれるだろう。これには正直に答えてよい。バーテンダーが次からあなたにウィスキーを薦める際、何を薦めるかの道しるべとなるからだ。バーテンダーはあなたの感想を必要としているし、そこからあなたが知りたいウィスキーのさまざまな情報を提供してくれるだろう。「このウィスキーはこんな香りがしませんか?」などと。あなたは、どれどれ、とまたもう一口飲んでみるだろう。「あ、確かに」と思いながら、あなたの香り体験は豊かになっていくに違いない。
ウィスキーは黙って飲んでもよし、誰かと語ってもよしなのだ。

タバコは吸ってよいですか?

構わない。バーで禁煙のところはほとんどないが、お店に確認すればOK。あなたがさりげなくタバコをカウンターに置いておけば、灰皿を出してくれるだろう。当然、まわりにやや配慮しながら。
ところでバーには、タバコどころか、葉巻を置いているところもある。それは凄く深い香りの世界だが、また別の機会に。


Q. ウィスキーを堪能しました。さて、どうやって帰ればよいですか?

ウィスキーを1~2杯堪能したところで、あなたが帰りたくなったとする。あとはお金を払って帰るだけだ。(もっと堪能しても良いけれど、酒の基本は“決して乱れず”だ。最初はスマートに帰るのがオススメ)
カウンターに座ったままで、バーテンダーの人に、帰る旨を告げよう。「美味しかったです、お会計おねがいします」でも良いし、「すみません、チェックお願いします」でも良いし、単に「ごちそうさまです」でも良いだろう。バーテンダーの人もあなたが初めての人なら明確に「お会計」「チェック」という言葉が合れば分かりやすい。
もしあなたがそのバーを気に入れば、お金を渡したときや、おつりをもらったときに、「またきます」と告げても良いだろう。

バーの会計「チャージ料」とは?

もし明細を渡してくれるバーなら、明細を見ると、「チャージ料」という項目で500~1500円ぐらいかかっているだろう(チャージが1500円もかかるところは高級ホテルとか、そんなイメージ。大体数百円なのでご安心を)。これは席料と考えよう。またバーでは頼まなくても、黙っておしぼりや、おつまみ(ナッツやピスタチオ、チョコレートなど)が出てくる。これらもチャージ料の中に含まれている。



Q. 帰る前にしておくことはありますか?

存分に愉しんでほしい。ただ、気に入ったウィスキーがあれば、なにかにメモすることをオススメする。ウィスキーの名前はだいたい地名で、覚えにくいカタカナが多い。せっかく気に入ったものがあるのであれば、次に飲むときの最初の一杯をそれにしてもいい。だから、覚えておけるようメモするのも手だ。


Q. 帰ったあとは?

楽しい酒を飲んだ、と記憶してほしい。もし楽しい酒を飲めたなら、このブログの記事を最低5人に熱烈に薦めてほしい。最後のは冗談だけど、きっとあなたは良いウィスキーデビューができるはずだ。
また、あなたがベテランなら、これらの記事をあなたが最初にバーでウィスキーを飲んだときのことを思い出して懐かしく思ってくれたに違いない。





ウィスキー初心者が初めてバーで注文するとき、知っておきたいこと(前編)

あのドキドキをもう一度

もし、あなたがこれまでバーでウィスキーを頼んだことがなければ、下記の記事が参考になる。もし、あなたが経験豊富な人なら、下記の記事は、はじめてのドキドキ感を思い出させてくれるだろう。

この記事は長めなので前後編に分かれている。この記事は前編。


Q. どのバーに行ったらいいですか?

一番最初に悩むのは、やはり店だろう。バー選びでは2つの方法がある。

バー選びその1: 信頼できる人に連れて行ってもらう

やはり先達というのはありがたいもので、初めての店に入るときに、誰かに連れて行ってもらうのが一番安心できる。もちろんゲストとして扱ってもらえるし、頼み方から、価格まで、分かった人が隣に居るのはその人の見よう見まねができ、大変に心強いものだ。

バー選びその2: インターネットで検索しておく

バーの重たい扉を開けなくとも、検索すればいい。おすすめの検索方法は、「ウィスキー バー ○○(地名)」での検索だ。お店のHPから、誰かのレビューまでさまざま引っかかる。そのバーの大体の価格帯、営業時間や、定休日などの情報は必須だ。また、気に入ればリピーターになるかもしれないので、できるかぎりウィスキーに力を入れていそうなバーを探り当てよう。
ちなみに「ここで異性を口説いてください」という感じのムーディーな色付き照明の空間のところは、たいていがお酒よりもおしゃべりのための場だ。もし自分ひとりで行っても、静かに座って飲む姿が想像できるインテリアのバーを選ぶと良い。
尚、バーは予約してもしなくても良いが、ほとんどその必要はない。バーに行列はできない。入れなければ、また今度。無駄足を避けるために、行く直前に席が空いているかどうか確認の電話をするといい。


Q. お店に着きました。どのウィスキーを選んだらいいですか?

ご注文は?と言われたとき、なんと言えばよいのだろう。ウィスキーを飲みたいのは確かなのだけど・・。
また、お店によってメニューがあったり、なかったり。どうすればよいだろうか。

注文するウィスキーの銘柄選びその1: 決まった銘柄を注文する

すでに決めている銘柄があるなら、「○○はありますか」と頼んでみよう。
できれば年数も告げよう。「○○の○年をください」と。もしかしたらそのバーにはその銘柄は置いていないかもしれない。銘柄はあっても、思う年数のものはないかもしれない。おそらくバーテンダーの方は「こういうものならあります」と代替案を提示してくれるはずだ。嫌いな銘柄でない限り、従ってみよう。


注文するウィスキーの銘柄選びその2: バーテンダーさんに相談する

もし銘柄が分からなくても、あせる事はない。およそ地球上のほとんどの人間は、ウィスキーの銘柄なんて知らない。ウィスキーの銘柄なんて、知っているほうが圧倒的に少数派だ。知らなくて当然の顔をしていればいいのだ。
「なにかウィスキーを飲みたいんですが、よく知らないんです。なにがオススメでしょうか?」のひと言で充分だ。もしこのひと言で、困った顔をするようなバーテンダーなら、その場で帰っても良い。まぁ席に座った以上、一杯だけ付き合ってあげるのも良し。ただ、ほとんどのバーテンダーは「わかりました。こういうのはいかがですか?」とか「最初でしたらこういったものは?」などと聞いてくれるだろう。デキるバーテンダーなら、他のお酒や料理などを引き合いに出してあなたの好みを探ろうとするだろう。心からウィスキーが好きなバーテンダーなら「ウィスキーファンをひとり増やせるかもしれない!」と目の奥が輝いているはずだ。
いずれにせよ、「私は初心者です」と腹を割り、バーテンダーさんとコミュニケーションをとることが肝要だ。もちろん、その際に、あなたの好みに関するできる限りの情報を提供しよう。

一杯いくら?

最初に「初心者です」と腹を割れば、高いものを薦められることはない。ただ、気をつけておかないと、候補の中から、自分で高いものを選んでしまう場合がある。目安となるのは年数だ。一般的に長熟のウィスキーは価格が高い。12年までのものにしよう。幅があるので何ともいえないが、1杯あたり800~2000円だろう。値段を聞くのは野暮じゃない。堂々と「これだと1杯いくらですか?」と聞けばよい。返ってきた答えがもし予算内なら「ではそれをください」と頼もう。


前編はここまで。気になる飲み方や、飲んでいる最中、立ち去り方など、後編は後日UPする。

ウィスキー初心者が初めてバーで注文するとき、知っておきたいこと(後編)



ウィスキーはカロリーを気にして飲むべきか?

美味しいお酒を愉しむとき、無視できないのが、そのカロリーだ。
気になるウィスキーのカロリーはいかほどであろうか?

ウィスキーのカロリーは、一杯(30ml)でおよそ70~100kcalだ。
実はウィスキーのカロリーは、含まれるアルコールのカロリーとイコールなのだ。


これは多いのか、少ないのか。
成人の一日の摂取カロリーはおおよそ1800~2200kcalだから、その3~6%程度である。
1日あたり1~2杯のウィスキーを飲んでも、大したことないが、5~6杯となると、1日のカロリー量に充分な影響を与えてしまう。ただこうなると、ウィスキーの場合、カロリーよりもアルコールに気をつけなければならない。アルコールの話はまた、別の機会に。

タイトルの「ウィスキーはカロリーを気にして飲むべきか?」に答えよう。
NO. ウィスキーは特段カロリーを気にしなくていい。
むしろ健康への影響度で言えば、アルコール量に気をつけましょう。


尚、「ウィスキーのカロリーはアルコール由来のエンプティカロリーだから太らない」というのは俗説で、人類の儚い願い。たくさんとれば太るのがカロリーだ。


【ご参考まで】
以下、ウィスキーのカロリー算出の計算式。
アルコール1gのカロリーは7kcal
アルコールの比重はおよそ0.8
アルコール度数が40%のウィスキーであれば、下記の計算式。
30ml × 40% × 0.8(比重) × 7kcal = 67kcal
もし、かなり度数高めのウィスキーでアルコール度数が60%であれば、100kcalの計算だ。





ウィスキーのシングル・モルトとは何か?

シングル・モルトとは何か?
ウィスキーを飲み始めると、まずぶつかるギモンだ。

科学的にいうと、、、
それは、ある蒸留所で大麦麦芽100%でつくられたウィスキーをボトリングしたものだ。
そのボトルの中には、他の蒸留所のウィスキーは混ざってないし、大麦以外の穀物も使っていない。
ついでに、いわゆるスコッチ・ウィスキーの蒸留所は100を超えると言われている。
(参考:wikipedia スコッチ・ウイスキーの蒸留所一覧


こういう説明は「なるほどそうか」と分かりやすいけれど、なんだか味気ない。
でもウィスキーはここに“人間”が混じってくるからおもしろい。どの蒸留所にも、“個性”があるのだ。

ただ、ウィスキーのつくり方は世界共通だ。
大麦をあれこれして、糖分を取り出して、2、3回蒸留して、樽につめて、寝かせて・・・というプロセスだ。
けれども、どの蒸留所でも、やり方や器具が微妙に違っていて、それが味に影響を与えるとされている。

また、樽で寝かせている、まさにその場所も、味に大きく影響する。
簡単に言えば、海沿いの蒸留所で寝かされたウィスキーは、潮っぽい香りがつく。
数年、数十年という時を経て不思議とそうなる。

だから、やり方や環境はとても大切だ。
長い年月を経て、ウィスキーはその蒸留所が考える味や香りが体現される。

こう考えると、ウィスキーはまるで人間みたいではないか。


では、最初のギモンに戻ろう。
シングル・モルトとはなにか?


それは結局、その蒸留所の個性なのだ。
数十年後を夢見ながら、これが美味いウィスキーをつくるやり方だと信じてやりきった人たちの結果である。だからシングル・モルトとは、そういった人々の願いが個性となり、それを瓶詰めして、目の前に届けられた、ひとつの“物語”のようなものだ。

どうかあなたがシングル・モルトを頼むときには、それが個性であり、物語であると知っていてほしい。

シングルモルトとは、個性であり、物語だ。



ウィスキーの飲み方 オン・ザ・ロックは氷次第

ウィスキーの飲み方はニート(ストレート)が一番だ。
ほかの飲み方はすべてデメリットがあるため、やめたほうがいい。
(参照:ウィスキーの飲み方は、ニートで

というのが私の基本姿勢だが、そんな私がなぜオン・ザ・ロックにもこだわりを持つのか?
それはオン・ザ・ロックが、とてもカッコいい飲み方だからだ。

琥珀色のウィスキーの中に浮かんだ氷の塊、その氷が放つ光。
ゆっくりとグラスを傾けると、光がさまざまに反射する。
少しずつ融けていく氷が、時間とともに味と香りをグラデーションする。

飲み終わると、氷の塊はすこし小さくなっている。
手につかんだグラスを回すと、氷がグラスにぶつかってキレイで涼しい音を立てる。

透明な氷のオン・ザ・ロック


まさにオン・ザ・ロックは、照明が薄暗いバーでこそ生きる洒落た飲み方だ。
(ちなみに、季節は夏が一番だ。まだクーラーがなかった時代の紳士の飲み物のイメージ)

ただ、気をつけてほしい。
オン・ザ・ロックは、とてもダサくなりがちな飲み方でもある。

そのポイントは、氷の質だ。
もしあなたがオン・ザ・ロックを頼んで、業務用冷蔵庫で作ったような気泡だらけの氷で出てきたなら、そのバーでは二度とオン・ザ・ロックを頼んではいけない。最低限、氷は透明でなければならない。
それも、「オン・ザ・ロックス」ではなく「オン・ザ・ロック」の形でなければならない。
もしグラスの中に2つ以上の氷が入っていたなら、失格だ。
グラスの中の氷はただひとつ、大きな塊が入っていなければならない。

これらのこだわりには、もちろん根拠がある。
一杯のウィスキーを愉しむ最適な時間は15~30分だ。その時間をかけて、ゆっくりと融けていく氷が最低限オン・ザ・ロックの礼儀なのだ。そのためには、氷屋さんで作った氷でなければならず、バーはコストをかけなければならない。

オン・ザ・ロックは、冷えていればいいというものじゃない。
もし冷凍庫から出てきた氷が何個か適当に入っていたら、すぐ溶けて、何を味わっているのか分からないままにそのウィスキーを飲み干さなければならなくなる。これはつくり手に失礼な飲み方だ。

とにかく氷の質で判断してほしい。
氷の質にこだわるバーでは、溶けにくいように表面積が小さくなるカットがされているだろう。球体になっていたり、ダイヤモンドカットだったり。

それらの氷の工夫を眺めることも、オン・ザ・ロックの魅力だ。
ともかく、オン・ザ・ロックは氷にこだわってほしい。