ウィスキーの保管の仕方:ロジック編

ウィスキーをおいしく飲むために、どのような保管が望ましいだろうか?
せっかく家飲み用に買ったウィスキーのボトルも、しらばく経ってから飲むと、肝心の香りが失われていることがある。それはもしかしたら、保管・保存方法に問題があったのかもしれない。そうならぬよう、この記事の知識が役に立てば嬉しい。尚、手っ取り早くテクニックだけ知りたい方はテクニック編を参照してほしい。



大前提としてウィスキーはとてもタフな酒

ただ、まず最初に断っておきたいのは、ウィスキーはタフな酒であるということ。他の酒と違って、少々のことでは劣化しないし、身もフタもないのだが、そもそも完璧に劣化を防ぐ方法は「時を止める」しかない。時とともにすべてが変化するから、完璧な保存方法なんてあり得ない。そんなわけで、気にしすぎず、どうかおおらかに飲んでほしい。

ウィスキーのボトルを買って、ウィスキーの“何を”保存すべきか?

ウィスキーの何を保存するかをハッキリしておこう。ずばり、それは「揮発性物質」だ。分かりやすくいえば「香り物質」。分子レベルの物質が、嗅覚を刺激することで、ウィスキーは飲む香水となる。これは1本のボトルの中に測定不能なほど、たくさん含まれているが、空気中に漂うものだ。だから、逃げていくものでもある。また、酸素と結合したり、紫外線を浴びれば、別の物質になってしまう。
だからウィスキー保存の基本的な考え方は、揮発性物質を紫外線や酸素に触れさせないということだ。


大敵なのは日光と空気だから、遮光と密封が大切

太陽の光に含まれる紫外線の光エネルギーは強く、ウィスキーボトルの分厚くて暗い色のガラスも容易に貫通し、中身に変化を与えてしまう。だから、ウィスキーは「絶対に太陽光の当たらないところ」に保管する必要がある。直射日光はもちろん、「太陽の光によってうっすら明るい部屋」に置くのもNGだ。
また、ウィスキーを余計な空気に触れさせないため、ボトルの栓をしっかりする必要がある。これについてはいくつかテクニックがあるので、後ほど「テクニック編」で触れたいと思う。

よく言われる“冷暗所”の定義は曖昧だし、現実的ではない

「ウィスキーは冷暗所で保管しましょう」とよく言われる。この曖昧な説明は、理系の人たちからの「冷暗所って何度だよ!」というツッコミとセットだが、一応定義を調べてみた。
日本工業規格(JIS K0050 化学分析方法通則)によれば「冷所」とは1~15℃を指す。ただしこれをそのままウィスキーに当てはめるべきでないと私は考える(もちろん理想的ではあるが)。しかし、何℃なら良いのか?というギモンの参考値としては、ウィスキー蒸留所の気候がヒントになるはずだ。アイラ島の夏の気温は20℃程度、北海道の余市では30℃程度、このことから、理想的には20℃程度、許容範囲は30℃以下だろうか、できれば30℃を超える日は多くないほうが良い。

ただ、このように温度の定義を考えるとき、いつも思うのは「日本の住宅でこの定義がなんの役に立つだろうか?」ということだ。ウィスキーのために「冷暗所」をわざわざ設置するのはほとんどの人にとって非現実的だし、仮に冷蔵庫に入れたとしても、冷えたウィスキーを常温にもどす時間がまどろっこしく感じてしまうだろう。
そんなわけで、当ブログではウィスキー保管の定義を明確に新しくしてしまう。

「あなたの自宅のもっとも涼しい場所」

に保管してください、と。前述のようにウィスキーとはタフな酒であるし、これ以上に現実的な定義はないだろう。(もちろんこのアドバイスはあなたのウィスキーが劣化しないことを保証するものではない)

さらに付け加えるなら、強い香り(=別の香り分子)のある場所での保管はオススメしない。完璧な密閉はあり得ないので、他の香り(防虫剤、唐辛子、等など)がないところが良いだろう。


ウィスキー保管のロジックまとめ


  • 香り分子を「変質させない
    • ウィスキーを酸素に触れさせないこと
    • ウィスキーを紫外線に当てないこと
  • 香り分子を「逃がさない
    • ボトルは出来うる限り密封状態を維持すべきである
  • ウィスキーに変化を生じさせる不利な状況を作らないこと
    • 強い匂いがない場所で保管されるべきである(他の香り分子がウィスキーの中に溶け込むとよくない)
    • 年間を通じて20℃程度(20℃±5℃、あるいは30℃以下)の場所での保管望ましいが、実際には「あなたの自宅のもっとも涼しい場所」(冷蔵庫を除く)での保管が現実的である

以上、ウィスキーの保管になにが大切であるかがわかってもらえたと思う。
これらの知識を参考に、今宵も楽しい家飲みライフを。


参考)ウィスキーの保管の仕方:テクニック編



レビュー:リトルミル 1990 20年 WA & 3R ぬくもりのあるアニメーションのような

LITTLEMILL 1990 20yo The Whisky Agency & Three Rivers(リトルミル 1990 20年熟成 ウィスキー・エージェンシーとスリー・リバースの共同リリース)を飲んだ。83点。
リトルミルはイギリスのスコットランド、ローランド地方の蒸留所。でもすでに閉鎖している。もともと生産量も多くないが、今後ますます見ることが少なくなるだろう。

リトルミル1990 20年熟成

【評価】
グラスから立ち上るのは、穏やかで爽やかな草原を思わせる、うまみのある麦の香り。馬で駆け抜けるような躍動感。
口に含めば、鉛筆画の小品を見ているような印象。壮大ではないが、繊細さと素朴さを味わう。みずみずしいタッチで先ほどの馬に乗って駆け抜ける姿が浮かぶ。オイリーな木枠。
まるで線画を複数毎つなげ合わせた、原始的でぬくもりのあるアニメーションを見ているかのようなウィスキー。

【Kawasaki Point】
83point

【基本データ】
銘柄:LITTLEMILL 1990 20yo(リトルミル 1990 20年熟成)
地域:Lowland, ローランド
樽: Sherry, Oak, シェリー、オーク
ボトル:The Whisky Agency & Three Rivers ウィスキー・エージェンシーとスリー・リバースの共同リリース

リトルミル蒸留所が閉鎖される2年前の1990年蒸留

鉛筆画の小品を見ているような印象




レビュー:アードベッグ 2007年 SMWS 33.118 心配無用

Ardbeg 2005 7yo SMWS 33.118(スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティのアードベッグ 2005 7年熟成)を飲んだ。88点。
ソサエティは世界最大のウィスキー愛好家団体で、そのボトルはどれも同じ色と形だが、毎回かならず詩的なタイトルがつく。今回のこのウィスキーに付けられたタイトルは「Goodbye to care」、訳せば「心配無用」、といったところか。

時には静かにグラスを傾けて、「心配無用・・」と心の中でつぶやいてみたくなることが、誰にもある。悪い未来ばかりを想像していたとき、ふとわれに返って、その想像を止めてしまえばいい、そうすれば案外未来は明るいものじゃないか、と思い出させるシンプルな力が、この言葉に宿っているような気がする。

さてはて、このウィスキーの香味やいかに。

ソサエティのアードベッグ、心配無用。

【評価】
その香りは、柑橘、ジンジャー、使い古した皮とタンニンの効いた赤ワイン。湿地の土。
ひとたび口に含めば、香りの爆発と夏草。この爽快感は青空。皮と火薬と金属、そして木。
木炭画で描かれた「夏の農夫の一日」。

【Kawasaki Point】
88point

【基本データ】
銘柄:Ardbeg 2005 7yo SMWS 33.118(スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティのアードベッグ 2005 7年熟成)
地域:Highland, ハイランド
樽: 1st fill Barrel, Bourbon,  バレル ファーストフィル、バーボン
ボトル:Scotch Malt Whisky Society スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティ

時にはショットグラスで・・


この爽快感は青空。「夏の農夫の一日」



レビュー:ブナハーブン トチェック 断片的に感じられる海

Bunnahabhain TOIEACH(ブナハーブン トチェック)を飲んだ。78点。
“トチェック”はゲール語で「スモーキー」のこと。ピートを効かせた麦芽を使用したバージョンのブナハーブン。

ブナハーブンの男は常に西を向いている

【評価】
グラスに鼻を近づければ、香ばしい麦の香りに荒々しいピートの香り。この爽やかさは潮の香り。海藻のようでもある。レモンと塩のニュアンス。
口に含めば、海藻サラダ。船の甲板の木。後味に煙が漂うが、柑橘がその印象を和らげている。ぬるっとしたテクスチャである。
断片的だが海を感じる一杯。

【Kawasaki Point】
78point

【基本データ】
銘柄:Bunnahabhain TOIEACH(ブナハーブン トチェック)
地域:Islay, アイラ島
樽: Bourbon, Oak  バーボン、オーク
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル

1881操業の文字とロープ

海藻サラダ。船の甲板。後味に煙が漂う

ブナハーブン湾に面したブナハーブン蒸留所を地図で確かめてみて。

大きな地図で見る



レビュー:ラフロイグ1995 17年 SMWS 29.125 フルーツケーキとペッパー

Laphroaig 1995 17yo SMWS 29.125(スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティのラフロイグ 1995 17年熟成)を飲んだ。85点。
スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティは世界最大のウィスキー愛好家団体で、そのボトルは会員しか買えず、すべてがカスクストレングス(=樽出しのまんま)である。ボトルに書かれた「29」はラフロイグ蒸留所のことで、続く「125」はこの蒸留所の125番目のリリースであることを示している。

さてはて、このボトルの香味は?

ソサエティのラフロイグ1995 17年熟成

【評価】
グラスに鼻を近づければ、甘いフルーツケーキ。生クリーム、メロンやピーチ、イチゴ。どこまでも上品で奥行きのある香り。煙があたりを包んでいる。ペッパー。
口に含めば、鼻から抜けるフルーツとペッパー。肉の旨味と煙。粗挽きのブラックペッパーを、少しの塩と味わっているような余韻。
食卓に誘う、想い出を刺激する一杯。

【Kawasaki Point】
85point

【基本データ】
銘柄:Laphroaig 1995 17yo SMWS 29.125(スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティのラフロイグ 1995 17年熟成)
地域:Islay, アイラ島
樽: ReFill Bourbon Barrel,  バーボンバレル リフィル
ボトル:Scotch Malt Wisky Society スコッチ・モルト・ウィスキー・ソサエティ

ソサエティは、どのボトルも同じデザイン。
違うのはラベルの数字や内容だけ。

「あからさまなスウィートチリソーセージ」というタイトル

食卓に誘う、想い出を刺激する一杯

ラフロイグ蒸留所の位置を地図で確かめて。
たまにはものすごくアップの地図を。「-」ボタンでアイラ島の全体像も確認できる。

大きな地図で見る



レビュー:マッカラン12年 オールドボトル 口の中で香るドライフラワー

THE MACALLAN 12yo Old Bottle(マッカラン 12年熟成 オールドボトル)を飲んだ。85点。

とある長閑な田舎で見つけたボトルだそうで、このボトルの売り手もこれがどれぐらい古いのか記憶は定かでなかったようだ。幸いにもTwitterでこのボトルの年代に関するいくつかの情報をいただけたが、私のオールドボトルについての浅学を思い知る結果となった。その経験はまるで大航海時代の船乗りのような気分で、「冒険されるべき」未知の世界への好奇心と期待を新たにもった。

香味だけでなく、その歴史も「深い」オールドボトル、それがまた魅力なのかもしれない。

出会うこと自体が貴重なマッカランのオールドボトル

【評価】
グラスに鼻を近づければ、古い葡萄の木。ドライレーズン、分厚い木の表紙がついた本。華やかで、ピアノの三重奏のような香りの旋律の重なり。若い木のような、年老いた木のような。
口に含めば、芳ばしく、口の中でドライフラワーが香り、じっくりと味わいたくなる。乳酸の深い甘みと、確信的な濃さの樽。
深い味わいに、誇りすら感じる一杯。

【Kawasaki Point】
85point
※この点数の意味は?

【基本データ】
銘柄:Macallan 12yo Old Bottle(マッカラン 12年熟成 オールドボトル)
地域:Highland (ハイランド)
樽: Sherry, Oak  シェリー、オーク
ボトル:Distillery Bottle, オフィシャルボトル

コルクはだめになっていたそうで、
現行マッカランのボトルキャップをはめている。


今とは麦も、醗酵槽も、樽も違うはずのオールドボトル

この頃のマスターブレンダーはどのような
香味のイメージでThe MACALLANを送り出したのか

芳ばしく、口の中でドライフラワーが香る

このボトルは並行輸入品
今もこの輸入会社は存在するのであろうか・・・